ウイルスセンター

渡邉香奈子先生の「「パレコウイルスって? 」パレコウイルス研究:6型の発見から3型レセプターの同定まで」を聴講して

新潟大学医学部保健学科 渡邉 香奈子 先生

はじめに

渡邉先生は、以前在籍されていた新潟県保健環境科学研究所時代からパレコウイルスの検査に携わっており、現所属の新潟大学医学部に移られてから、さらに深く研究をされています。検体から分離した未知のウイルスを新型のパレコウイルスと同定するまでの長い道のりを楽しそうにお話してくださいました。西村先生の紹介にもあったように、まさに「Ms.パレコ」。パレコ愛に満ちたお話でした。

概要

ヒトパレコウイルスについて

ヒトパレコウイルスはピコルナウイルス科パレコウイルス属に分類されるウイルスで、エンベロープを持たない1本鎖のRNAウイルスである。1999年に、従来エンテロウイルス属のエコーウイルス22型及び23型に分類されていたが、他のエンテロウイルスと遺伝子学的に異なることなどから新たにパレコウイルス属として再分類された。パレコウイルスにはAからFの6つの種があるが、ヒトに感染性を示すのはパレコウイルスA(PeV-A)で、PeV-AにはA1~A19の19遺伝子型がある。

ヒトパレコウイルス6型の発見

ライ症候群と診断された1歳女児の髄液が、病原体サーベイランスの検体として新潟県保健環境科学研究所に搬入された。各種培養細胞(MDCK、CaCo2、RD-18S、Vero(9013株)、LLC-MK2、HeLa、HEp-2)で培養を行ったところ、Vero細胞(9013株)で細胞変性効果(CPE)が出現し、そのCPE像からまずはエンテロウイルスが疑われた。ウイルス同定のため、抗エンテロウイルス血清を用いた中和試験を実施したが中和されず、一般的にエンテロウイルスを検出できるとされるPCRも反応しなかった。分離されたウイルスの形態を電子顕微鏡で観察すると、直径約30nm、表面構造は比較的滑らかという一般的なエンテロウイルスの形状が認められた。生化学的には、DNA合成阻害剤による増殖抑制が見られなかったことから、RNAウイルスであることが強く示唆された。また、エンテロウイルスであれば酸性環境に対して抵抗性を持つはずであるが、実際酸感受性試験において酸抵抗性を示した。以上のことから最初に疑ったように、分離ウイルスはエンテロウイルスに属するウイルスである可能性が強まった。次に分離ウイルスの遺伝子の塩基配列の解析にとりかかった。ウイルスをVero細胞で大量に増やした培養上清をPEGで塩析処理後、塩化セシウムを用いた超遠心操作で精製し、得られたウイルス粒子について全塩基配列を決定した。得られた配列をもとに、ウイルスの系統樹解析を行ったところ、分離ウイルスはエンテロウイルス属ではなくパレコウイルス(PeV)属であった。さらに翻訳領域をアミノ酸の配列に翻訳してみたところヒトパレコウイルス1型(HPeV-1)、2型(HPeV-2)及び3型(HPeV-3)と高い相同性を示したことから、ヒトパレコウイルスであることが判明した。さらに、既存のHPeV-1~3抗血清を用い、培養ウイルスとの交差反応性を調べたところ、いずれにも反応しなかったことから、既存のパレコウイルスではなく新型のヒトパレコウイルスであることがわかった。その後、新潟県において過去に分離されたものの同定ができていなかったウイルスについて詳しく調べたところ、ウイルス分離株10株がこの新しいパレコウイルスと同じウイルスであり、しかも、そのうちの9株が2000年から2001年という短い期間に分離されており、この時期に新潟県内でこのウイルスの流行があったことが示唆された。このウイルスを新型のパレコウイルスHPeV-4として論文投稿したところ、ICTVピコルナウイルス科ワーキンググループによりHPeV-6と再分類された。このことにより、未知のウイルスは最終的にHPeV-6ということになった。

PeV-A感染症について

主に乳幼児における感染が報告されており、発熱、胃腸炎、上気道炎、発疹症などを引き起こすことが知られる感染症であり、それらの中で検出割合が多いのはPeV-A1とPeV-A3である。PeV-A1は毎年検出されるが大流行は観察されない。一方、PeV-A3は、数年おきに流行がみられる。季節性もあり、6月から9月の検出が多く、世界各国から報告があるが、地域差が見られる。

新潟県において2013~2014年に採取された臍帯血中のPeV-Aに対する中和抗体調査では、母親の年齢35~44歳の群でPeV-A3に対する中和抗体の陽性率が低かった。また、2010年に採取された血清を用いた、新潟県における各年齢群におけるPeV-Aに対する中和抗体の保有率調査では、PeV-A1については多くが1歳で抗体を獲得しており、高年齢群でも抗体は保持されていた。一方、PeV-A3についてはPeV-A1に比べて抗体の獲得が遅い様子が見られ、また、36歳以上の抗体保有率も低いことが分かった。このことから、2010年当時36歳以上の年齢群では、幼少期にPeV-A3に暴露していなかった可能性が示唆され、新潟においてはこのウイルスは1975年以前には現在のような流行をしていなかったことが示唆された。

PeV-A1とPeV-A3の症状を比較すると、PeV-A1は胃腸炎症状が主で、PeV-A3はPeV-A1に比べ、発熱、発疹、敗血症、筋痛症の症状の割合が多かった。ウイルスが検出された患者年齢比較では、PeV-A3の方が低月齢児からの検出が多かった。

ヒトパレコウイルス3型受容体の同定

PeV-A3は、発熱、胃腸炎、上気道炎、発疹症などの軽い症状のほかにも、新生児において敗血症、髄膜脳炎などの重症感染症を引き起こすことがあるが、重症化を引き起こすメカニズムは分かっていない。

ウイルスが細胞内に侵入し感染するためには、感染細胞表面に受容体の存在が必要である。ウイルス受容体は細胞や組織においてウイルス感染の特異性に関与しており、ウイルスの病原性に重要な役割を果たしている。PeV-A3の感染のメカニズム解明のためにその受容体に同定が重要であることから、PeV-A3の受容体の同定に踏み出した。

PeV-A3に高い感受性を持つHuTu-80細胞(ヒト十二指腸腫瘍細胞由来)にCRISPR/Cas9の技術を利用し、約19,000の遺伝子をターゲットとした遺伝子ノックアウトHuTu-80細胞を作成した。これは、標的とする遺伝子配列に特異的に結合するgRNAを細胞に導入し、その機能をノックアウトしたもの。通常、HuTu-80細胞がPeV-A3に感染すると細胞は死ぬが、PeV-A3受容体遺伝子がノックアウトされたHuTu-80細胞では、PeV-A3を感染させても生き残る。その生き残った細胞中のgRNAを定量することで、ターゲットとなったノックアウト遺伝子を同定することができる。この実験により、ノックアウト遺伝子はMYADMであると同定された。

MYADMとは骨髄系細胞に分化する際に発現量が増加する蛋白質である。

MYADMがPeV-A3の感染に必須のタンパク質であることを証明するため、いくつかの実験を行った。PeV-A3はヒト由来のHuTu-80細胞に感染するが、先に述べたようにHuTu-80細胞のMYADM遺伝子をノックアウトしてMYADMの発現を失わせるとPeV-A3は感染しなくなる。また、PeV-A3はハムスター由来のBHK-21細胞に感染しないが、この細胞にヒトMYADM遺伝子を導入すると、PeV-A3は感染するようになる。このことから、PeV-A3はMYADMを発現する細胞に感染し、増殖することが分かった。

PeV-A3はマウスの細胞にも感染しない。ヒトとマウスのMYADMを比較したところ、第4細胞外領域に違いが認められ、マウスMYADMはヒトMYADMと比較し、10個のアミノ酸置換と1つの挿入配列があることが分かった。そこで、ヒトとマウスのMYADMの第4細胞外領域のみを置換したキメラのコンストラクトを作製し、それをBHK-21細胞に導入し、PeV-A3の感染性を調べた。その結果、ヒトMYADMの第4細胞外領域がPeV-A3の感染に必須であることが示唆された。また、PeV-A3のVP0がヒトMYADMの第4細胞外領域に結合することを突き止め、VP0とヒトMYADMの第4細胞外領域との結合がPeV-A3の感染に重要であることが示された。加えて、PeV-A3以外のPeV-Aの感染にもMYADMが関与しているかも調べ、PeV-A1~A6の共通の受容体になりうることを見出した。

今後の展望

ヒトMYADMを発現するマウスはPeV-A3感染症の動物モデルになる可能性が高いことから、ゲノム編集によりヒトMYADM発現マウスの作製に着手している。

これによりPeV-A3感染症の動物モデルの樹立と、これを用いたPeV-A3感染症の重症化機序の解明を目指している。

感想

PeV-A6型を世界で初めて分離したのが新潟県保健環境科学研究所で、その偉業に携わっていた渡邉先生のお話を聞けて大変勉強になりました。未知のウイルスを同定するまでの検査工程は、想像するにかなり果てしないものであったにも関わらず、その苦労話でさえも楽しそうにお話される姿から、先生の情熱が伝わってきました。私ども衛研にも同定できずにいるウイルス株が数十株保管されているので、今後それらのウイルスの同定に尽力していきたいと思いました。

最後に、渡邉先生を始めとするご講演くださった先生方、西村先生、仙台医療センターのスタッフの皆様に厚く御礼申し上げます。

執筆者

所属 宮城県保健環境センター 微生物部 氏名 鈴木 優子

所属 宮城県保健環境センター 微生物部
氏名 鈴木 優子

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