ウイルスセンター

生田和史先生の「サイトメガロウイルスの「経胎盤」母子感染の謎」を聴講して

金沢大学・医薬保健研究域 保健学系・医療科学領域 病態検査学講座 生田 和史 先生

講義の概要

生田先生の講演では主に下記の2点についてご紹介してくださりました。

先天性CMV感染症の概略

サイトメガロウイルスはヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスであり、TORCH症候群の1つに数えられる。TORCH症候群とはT:トキソプラズマ、O:その他、R:風疹ウイルス、C:サイトメガロウイルス、H:単純ヘルペスウイルスの頭文字を取ったもので、感染すると胎児に重篤な症状を引き起こす感染症をひとまとめにした概念である。サイトメガロウイルスの感染の多くは不顕性であるが、免疫が低下した状態の宿主では肺炎や胃腸炎などの症状を呈したり、妊婦が感染しそこから胎内感染が起きると胎児に先天性のサイトメガロウイルス感染症が起きたりする。疫学的には我が国のサイトメガロウイルス感染者の割合は、1970年代で96%(20~40歳の男女)であるのに対して2010年代では68%(妊婦)と年々減少傾向である。

このような状況であるが、ウイルスに対する抗体を持たない妊婦がサイトメガロウイルスに感染すると、40%に胎内感染が起きることが知られている。その後の経過としては、その5%は出産時に小頭症や難聴などの先天性サイトメガロウイルス感染症の症状を来たし、95%は出産時には症状を呈さないもののその一部が成長後、乳幼児期に発症し難聴や精神発達遅滞などの症状を呈する。また、このような感染は第二子以降に多いことが知られている。上の子が保育園等で感染を受けてウイルスを家庭内に持ち込み、未感染の母親へ感染させるためと考えられている。

次にサイトメガロウイルスの重感染についてである。サイトメガロウイルスは糖タンパクgHの違いにより、A型(AD169株)とT型(Towne株)に分類されるが、それぞれ抗原性が異なり宿主の免疫反応性が異なる。そのため既感染であるからといって必ずしも先天性サイトメガロウイルス感染症の心配が無いというわけではない。実際に先天性サイトメガロウイルス感染症のスクリーニングを行った結果が示された。スクリーニングでは、感染歴の指標として母・児から血液を採取しELISA法で抗体型を決定した。また、その時点での体内のウイルス有無の指標として、児から尿を採取しリアルタイムPCR法でDNA型を決定した。スクリーニングでサイトメガロウイルス陽性となった66症例のうち、21症例について検討された。21症例のうち、16症例では母はA型、T型いずれかの片方の型に感染しており、その児からは母が感染したウイルス型と同じ型の抗体型が児の血液から、DNA型が尿中から検出された。A型とT型とを重感染していた妊婦から出生した児の尿からは、どちらか片方のDNA型しか検出されなかった。重感染した母子の抗体型、DNA型を時系列でみると児の血液からは生後1ヶ月で片方の型しか検出されなくなる。これは抗原原罪という現象であり、母親が妊娠前に感染した型の抗体は産生されるが、妊娠中に感染したもう片方の型の抗体は母体では産生されない。

なぜCMVが胎児に感染するのか

サイトメガロウイルスの胎内感染には、C19MCが関与している可能性がある。C19MCは19番染色体にある胎盤特異的なマイクロRNA集団であり、多くのウイルスに対して感染を防ぐように働く。しかしながら、サイトメガロウイルスに対してはウイルスDNA量を増加させ、ウイルス前初期遺伝子(IE)の発現量も増加させることがわかった。すなわち、C19MCによるウイルスの増殖は、IEの増加によるものと考えられる。

また、その詳細な機構としてC19MCによるRac2遺伝子の発現抑制がある。Rac2の発現が抑制されることによりIEの発現が増加し、ウイルスの増殖へとつながっている。このようにサイトメガロウイルスは胎盤内の環境を利用することにより増殖することが分かってきた。他に経胎盤感染を起こすウイルスもサイトメガロウイルスと同じく胎盤内の環境を利用するのかや、Rac2などの遺伝子がウイルスの増殖へ具体的にどのように関与するのかなどについては、まだよく分かっていない。

感想

生田先生の講義を聴講し、臨床的にも重要とされ、また母子感染症でも最も多いサイトメガロウイルス感染でもこれだけ分かっていないことがあるということに驚きました。改めて見ると、私たちが大学の授業や実習で学んだことの中にもメカニズムがよく分かっていなかったり、経験的に理解されているものもたくさんあると感じます。

今後医師として現場で働く際にも、疑問点を持つことを大切にし、こうした研究を臨床で適切に活かせるような医師を目指したいと思います。お忙しい中、ご講演していただきありがとうございました。

執筆者

有馬瑞希 岩手医科大学医学部医学科 第6学年

有馬瑞希 岩手医科大学医学部医学科 第6学年

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