ウイルスセンター

水谷哲也先生の「獣医はSARS-CoV-2をどう見ているか~SARS-CoV-2も動物のコロナウイルスのひとつ~」を聴講して

東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター センター長・教授 水谷 哲也 先生

東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター センター長・教授 水谷 哲也 先生

講義の概要

新型コロナウイルス感染症の現状ヒト編

2020年代から始まった、新型コロナウイルス感染症の拡大は猛威を振るい、世界中を震撼させている。今回のパンデミックでは新規感染者数に遅れて死亡者数が増加する傾向にあり、現在の感染者数は5億人を超過する。また、新規感染者データは各国の国政状況により大きく変動する。例えば、ウクライナのデータからは2022年2月24日のロシアの侵攻を境に少ない感染者数で停滞していることが見受けられる。ここには国の安全を最優先に動いた、ウクライナ情勢の計らいが影響していると思われる。アフリカについても、一見すると感染者が少ないように見えるが、そもそもの検査数が少ないため蔓延していないとは言えないのだ。そして、21世紀はコロナウイルス感染症の時代と称せるほど大きな感染症蔓延の回数は多く、頻度についても現在にかけて段々と短くなっているようである。また、アフリカ大陸では人獣共通感染症の流行回数が10年間で1.5倍と、格段に増加している。そして、アフリカのげっ歯類が関与していると考えられている、人獣共通感染症の中で特に注意すべきなのは、レプトスピラ症であるという。レプトスピラ症とは宿主域がとても広く、主に飼い犬から人への感染が懸念されている感染症であり、犬の感染自体はほとんどが無症状であるため、感染の疑いを持ちにくいのだと考えられる。

SARS-CoV-2の動物への感染状況

驚くべきことに獣医師の守備範囲の動物頭数は大まかなものだけで、およそ3億5000万頭に及ぶという。また、主な日本の伴侶動物や家畜が感染するウイルス数を見ていくと、家畜のウイルス数が多い傾向がみられる。家畜の中でもブタに関しては、人獣共通感染症を引き起こすウイルスもある。そして、感染症について私たちの身近な動物に着目すると、犬は感受性が低く(感染しにくい)、猫は感受性が高い(感染しやすい)と言えるようだ。またこれも驚きの事実であったが、犬や猫には濃厚接触という定義はなく、コロナウイルスに関しては牛や豚よりウイルス感染が多いのだという。 特に犬猫を代表する、人に飼われるような伴侶動物については人の感染者が増えると、それに伴って感染頭数が増えることも理解しておきたい。感染したからと言ってペットを捨てることは絶対にしてはならないことである。これまで、伴侶動物や家畜の観点からの感染症についてまとめたが、野生動物にも着目すると、シカやネズミは感受性が高く、感染リスクも高いという。また、水谷先生がお話しされていたことには「海洋動物への感染」という観点もあった。こちらもイルカやクジラは感受性が高く、感染している可能性もあるということで、新たな知見が広まるポイントでもある。これらより、人獣共通感染症の恐るべきことは、人間の世界で収まる感染症でないが故に、私たちの知らないどこかでウイルスが変異してしまうということだと言える。つまり、ヒトの間での感染拡大が収束したように見えても野生の動物など、調査しきれない範囲で変異株が生まれ、再びヒトに戻ってくるという可能性も十分にあるということなのだ。

SARS-CoV-2のコロナウイルス科における位置付けと変異メカニズム

コウモリを介してコロナウイルス科コロナウイルス亜科のα・βコロナウイルス属、γ・σウイルス属はそれぞれコウモリ、鳥類を介して進化する過程で分岐した。SARS-CoV-2はじめ、SARS-CoV・MERS-CoV・ヒトコロナウイルスOC43(一般的なかぜを引き起こす)・ヒトコロナウイルスHKU1はβコロナウイルス属に含まれる。ウイルスの歴史の始まりはヒトの誕生よりもはるかに昔である4億前に遡る。そしてコロナウイルスの共通祖先は中石器時代に誕生した。

現在、コロナウイルスには社会から消えているもの、感染中のものが存在する。このことからコロナウイルスの歴史は比較的浅く固定化されていない、弱毒化するほど安定していないという見方もできる。また、弱毒化に必要な要因の一つとして変異性の高さが挙げられる。SARS-CoVは修復酵素を持っているために、修復酵素を持っていない場合と比較して変異の入りやすさが15分の1になった。このことが影響してかポリオウイルス、インフルエンザウイルスよりもコロナウイルスは変異性が低いデータ出ており、弱毒化する可能性の低さが伺える。そもそも、変異はウイルスが子孫繁栄に有利な立場をたもつために行われる。例えば、わずかな宿主の体温差はウイルス蛋白質の機能に影響するため、SARS-CoVは体温に応じて変異している。コロナウイルスはコウモリの体温40度に適応するものからヒトの体温37度に適応するものへ変異したため、コウモリからヒトの中で広まったウイルスと同一のウイルスを採取することは不可能である。

スパイク蛋白質でも変異は可能であり、BA.1/2/3/4/5では感染力を上げる中和抗体から逃れるスパイク蛋白質の受容体結合領域での変異が確認されている。

オミクロン株はアフリカのボツワナで出現したが検査や治療などの医療体制が整っていないアフリカ、ウクライナでは新種株が出現する可能性が高く特に注意が必要だ。

東京農工大学感染症センター「未来疫学®」の挑戦

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)はダニを媒介にヒト・犬・猫に病気を起こす。致死率はCOVID-19の2%をはるかに上回る12%である。現在、感染域が温暖化の影響で北上しており懸念されている。そのため、今後対策が不可欠である。

また、未知のウイルスは約170万種、そのうち人獣感染症は実に約85万種あるとされているように知られていないウイルスの数は膨大だ。必ず出現するであろう未知のウイルスに立ち向かう方法は様々で、東京農工大学感染症センター「未来疫学®」は以下の視点からアプローチしている。

①未知のウイルス発見
②未来に出現するウイルスの予測
③野生動物のコントロール
④動物感染症のリアルタイム把握
⑤食品中の抗ウイルス効果
⑥文系理系関係ない感染症学の発展

①においては「IPBS 生物多様性及び生態系サービスに関する政府間政策プラットフォーム」を展開し、新たに発見されたウイルスの情報をリアルタイムで共有することを可能にした。

③、④に関して、ヒト感染症に比較し動物感染症の体制は整っておらず、感染規模のリアルタイム把握システムや獣医療ネットワークの構築に取り組んでいる。

⑤では食品の抗ウイルス作用が免疫効果による間接的なものであることから、食品が直接的に抗ウイルス作用をもたらすことを目標とし研究している。 同大学では培養細胞レベルにおいて、納豆抽出液内の酵素が牛ヘルペスウイルスI型の表面蛋白質D、α株始め数々の新型コロナ変異株のスパイク蛋白質を分解し感染阻止することを発見した。80種類以上の蛋白質分解酵素をもっている納豆菌はあらゆる病原菌の感染を直接的に阻止する可能性を秘めており、まさにSDGsを達成できる日本の伝統食だと位置づけできる。

感想、謝辞

これまでCOVID-19の変異性は高いと感じていたが水谷先生の資料からはインフルエンザウイルスよりも変異性が低いとも読み取れ、新たな見方を学ぶことができた。世間一般論にとらわれず多様な視点から考え方を更新していきたい。
また、未知のウイルス、人獣共通感染症の多さに驚いた。
そんな中、動物感染症は人間の感染症よりもシステム整備がなされていないという現実も目の当たりにした。
今回のコロナウイルス感染症は野生動物から人間へ広まっていったものであり、野生動物側の衛生環境が整っていなかったことが蔓延に繋がったとも言えるのではないかと感じた。こうした蔓延のリスクに対応するためには、人間を診る医者だけでなく、獣医師の視点からも対処していく必要があると考えさせられた。

さらに、食品中の抗ウイルス効果についてのお話は正に私たちの研究テーマと重なるところであり、大変興味深かった。今後も今回学んだことを糧に研究を深めていきたい。

水谷先生はじめ、貴重なご講演をしてくださった先生方、並びこの会の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

執筆者

山形県立山形東高等学校2年 長澤バティ瑛美、安井耶茉明

山形県立山形東高等学校2年
長澤バティ瑛美、安井耶茉明

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