ウイルスセンター

森内浩幸先生の「子どもにとっての COVID-19」を聴講して

長崎大学大学院小児科学 教授 森内 浩幸 先生

長崎大学大学院小児科学 教授 森内 浩幸 先生

はじめに

講義前半は、感冒コロナウイルスと新型コロナウイルスの比較を中心に、子どもにとってCOVID-19とはどんな病気なのかを解説いただきました。多種多様な資料やデータを基に、子どもにとって感染や重症化のリスクが低いことを、明確にお示しいただきました。

後半は、それにもかかわらず、感染拡大防止の名の下に行われている様々な対策によって、子どもたちの学習の機会が奪われ、心の発達が損なわれている深刻な状況に対して、警鐘を鳴らす内容でした。

私自身、教育の現場(小学校)に身を置き、子どもたちに(保護者や教職員へも)我慢を強いている状況に対して、日々迷い悩み、心を痛めてきました。COVID-19の研究や治療の最前線にいらっしゃる森内先生ら講師陣の講義を拝聴し、医学的・科学的な根拠をもって、子どもの心身の健康を守り教育を保障していく学校のあるべき姿を、明確に捉えたいという思いをもって臨みました。

講義概要

(1) 感冒コロナウイルスと新型コロナウイルス

  • 感冒コロナウイルス(HCoV: OC43, 229E, NL63, HKU1)は4種とも4~6歳頃までに感染する。
    →免疫ができるので、大人は感染しないか、しても軽くて済む。ただし、免疫のない高齢者が罹ると重症化の恐れがある。
    →2歳未満児・基礎疾患を有する人・高齢者は、重症化することもある。
  • 新興コロナウイルス(SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2)は、子どもも大人も感染する。
    →子どもにとっては風邪で済むことが殆どだが、高齢者では重症化しやすい
  • 感冒コロナウイルスも元は新興コロナウイルスであり、新型コロナウイルスも感冒ウイルスとして落ち着くのか? 消滅するのか?
    →SARS-CoVのヒト-ヒト感染は終息した、MERS-CoVは有症状者からの伝播なので封じ込め可能、SARS-CoV-2は無症状感染者からも伝播するので封じ込め不可能。
  • 新興コロナウイルスがヒト社会に深刻な影響を与える理由は、
    移動→ヒトの諸活動のグローバル化に伴い、感染症の拡大がより速く、より広くなった。
    密集→世界人口は19世紀から激増し、人口密度が高くなり、そのために人から人への感染が起こりやすくなった
    高齢化→寿命が延び、特に先進諸国では高齢社会となり、重症化する年代の人口が多い。

(2) 子ども・学校におけるCOVID-19

  • 子どもにとって、新型コロナウイルスは風邪のウイルス。
    →子どもが重症化しない理由~「子どもは風邪の子」風邪に慣れている~
    ・ 感冒コロナウイルスに対する免疫が新型コロナウイルスに対しても防御的に働く(?)。
    ・ 感染症の罹患や生ワクチン接種を繰り返すため、自然免疫が強化されている。
  • 若者は軽症がほとんどだが、しばしば後遺症が残る。
  • 高齢者は、ウイルスへの免疫応答がうまくいかず、炎症がダラダラ続き、それによって血管障害や血栓形成が発生し、肺・心臓・腎臓・脳等に障害が生じる。
    →高齢者が重症化する理由~「初めての病原体は苦手」新しい事は学べない~
    ・ 重症化のリスクとなる基礎疾患(肥満・高血圧・糖尿病・慢性閉塞性肺疾患など)が多い。
    ・ 免疫系の老化のため、新たな病原体に効果的に対応できず、炎症反応が持続し過剰に起こる。
  • 子どもにとっては、RSウイルス感染症やインフルエンザの方が致死率・死亡率が高く、怖い。
  • インフルエンザは、子どもが流行の中心。
    →学校での流行が家庭へ、そして社会全体へ広がる→2割欠席で学級閉鎖
  • COVID-19は、これまでのところ子どもが流行の中心ではない、子どもの重症化はまれ。
    →社会での流行が家庭へ、そして学校の中へ広がる→1人でも感染者が出たら学校閉鎖?
  • 子どもの感染者数(割合)は少ないが、徐々に増加している。しかし、学校閉鎖中も再開後も、約7割が家族から。
    →変異株(アルファ株)への置き換わり後も、6~8割が家庭内感染で、学校内感染は1割以下であり、重症化も少ない。
  • 小学校、中学校、高校と上がるにつれ感染(クラスター)例は多い。→部活動はリスクが高い。
  • 学校生活において、対面での活動時間が長いほど感染リスクは上がるが、感染予防介入策の数を増やすほどある程度までは感染リスクは下がる。
    →「デスクシールド」は効果なし、「食堂の閉鎖」「校庭の使用禁止」の効果は疑問。
    →「教師のマスク着用」「連日の体調チェック」「課外活動の禁止」は、重要なのに対応不十分。
    注:アメリカの学校のデータであり、 日本の学校では、教師も子どももマスク着用と毎日(登校前)の体調チェックはほぼ100%行われています。課外活動(部活動)は、学校再開後に徐々に再開し、活動の内容や範囲も徐々に広げてきています。【小澤】

(3) 子どもにとっての新型コロナワクチン

  • 健康な子どもであれば、急ぐ必要はない。
    →障害児等は感染や重症化のリスク軽減が期待される。→主治医と相談の上で接種。
    →まずは、子どもに関わる大人たちの接種が重要。
  • 子どもへの接種は、かかりつけ医による個別接種を。→学校での集団接種は弊害が大きい。
  • 12歳以下の子どもへの接種は、海外で治験が行われている段階。

(4) 若者のワクチン忌避

  • 若者(20代・30代)は、「ワクチン接種をしたくない」「様子を見て判断」が多い。その最も多い理由は、副反応が心配だから(約7割)。
    →若い人ほど、痛み・腫れ・発熱・倦怠感等の副反応が出現している。
    →モデルナやファイザーのワクチン接種後の心筋炎発症例もあるが、接種のメリットは心筋炎のリスクを大きく凌駕する。
    →COVID-19重症例とアストラゼネカのワクチン関連血栓症を比較すると、年齢が高いほどワクチンのメリットが大きく上回る。感染が広がっていない地域では、50代以下だとデメリットの方が上回る。
  • COVID-19感染者に、回復後も様々な後遺症が見られる例が報告されている。
    →症状・程度・持続期間等は様々。
    →[ノルウェー]COVID-19軽症患者対象の調査で、若年層(16~30歳)の52%に、味覚障害・嗅覚障害・倦怠感・息切れ・集中力低下・記憶障害等の後遺症が見られた。

(5) まとめ ~withコロナ時代の子どもたち~

  • ストレスフルな学校生活→マスクを着け、距離をおき、窓を開け、友達の顔が見えなくなるシールド、私語禁止の給食、個々の練習だけで合わせられない吹奏楽・・・。
  • 子どもにとってのマスク着用の是非
    →[推奨]日本、アメリカ等[非推奨]イギリス、フランス、カナダ等
    →日本小児科医会は、「2歳未満は不要、むしろ危険」と警告している。
    →激しい運動時の酸欠(中国の事例で、中学生3人が持久走の最中で突然死していて酸欠が疑われています)、熱中症のリスクなど。
    →表情から感情を読み取ることが難しい。
  • この子らが大人になった時に「コロナ世代」と呼ばれるようにならないか?
    →学力低下、経験不足(技能低下)、コミュニケーション能力低下、空気が読めない、情緒不安定、集団行動苦手など。
  • 子どもたちは、学習の機会を奪われ、感染対策を強化するほど心の発達が損なわれ、心の健康が蝕まれていく(抑うつ傾向や情緒障害など)。自殺児童生徒も激増(2020年は前年比1.4倍)。
  • 新型コロナウイルスで身体の健康を損なわれなかった子どもが、事故や虐待によって生命の危険に晒されている。
  • 子どもにとってのCOVID-19の今後の課題は、デルタ株や後遺症やワクチン接種などの医学的側面だけでなく、心の健康や発達をどのように支え、いつ・どの段階で・どのように子どもたちの生活を元に戻していくかである。

おわりに ~感想等~

2020年3月、COVID-19の感染が広がり始める(いわゆる第1波)と、政府は全国の学校を一斉に臨時休業(学校閉鎖)としました。それは、3か月にわたり、年度が替わったことで、学校内では職員の異動があり、クラス替えがあり、担任も替わりました。6月の学校再開時に、子どもも保護者も、そして教職員も不安でいっぱいであったことは言うまでもありません。

再開後の学校では、文部科学省から示された衛生管理マニュアル(副題「学校の新しい生活様式」で、現在はVer.6)に基づき、様々な感染防止対策をとっています。登校時の検温等の健康チェック、マスク着用、手洗いや手指消毒、子どもが触れる場所・物の消毒、机の間隔を離し、発声・会話・身体接触等を減らし、学級や学年をまたぐ(合同・交流、課外等の)活動を控えるなどです。グループでの話合い活動や共同作業、合唱・合奏、調理実習、人との距離が確保できない運動種目等を行わないことで、学習活動を再開しました。修学旅行などの宿泊学習、運動会、学芸会、授業参観、プール指導なども中止・縮小したり、全くやり方を変えて(宿泊せず近場の日帰り2日間に分けた修学旅行等)実施したりするなどしてきました。現在は、医学的・科学的な知見を踏まえ、できる限り安全に、感染リスクを減らして“行う”工夫や配慮に力を注ぎ、少しずつ学習活動を取り戻しつつあります。

対面(会話)の活動を減らしても学習の内容や質を低減させない工夫として、ICT機器の整備・活用が一気に進みました。児童生徒1人1台のタブレットPCが整備され、それを使って会話をせずに画面を通して意見交流(話合い?)をしたり、始業式・終業式や児童集会などを参集せずに各教室をオンラインでつないで行ったり、工場見学などもリモートで行ったりしています。

しかしながら、こうした間接的な経験・学習は、本物を直に見たり触れたりして学ぶ体験や、人と向き合って相手の表情や感情へ心を配りながら自分の言葉や行動をコントロールする体験など、生の経験・学習には及びません。本来子どもたちが学習・経験するはずであった様々な活動の中止・縮小・変更により、森内先生がご指摘するように、学力低下の懸念だけでなく、コミュニケーション能力の低下や心の健康・発達が損なわれることへ、現場の教職員も危機感をもっています。そして、それを防ごうと必死に子どもたちと向き合っています。子どもたちの心のケアや心の成長へ力を注いでいますが、心の状態を知る重要な手掛かりとなる表情や声(言葉)が、マスク着用によって把握が難しいという課題に直面しています。

森内先生のご講義の最後に「ゼロリスクを求めない(そんなものは幻想)」とありました。学校においても「どんなに感染防止対策を徹底しても、いつ・誰が感染してもおかしくない現状」と認識しています。それでも、学校(個々の教職員)は「子どもを感染から守りたい」と願い、また、そうした保護者や地域の強い願いに応えなければならないという使命感から、様々な感染防止対策を講じざるを得ません。感染防止と教育(子どもの心身の健やかな成長・発達)の保障とのバランス、葛藤の中で職務に当たっています。学校がそのバランスを図って進んでいくためには、COVID-19に関する医学的・科学的な最新の知見を学び、それを根拠として、子どもの現在はもちろん将来にわたる幸福を考えて判断していくことであると、受講して改めて痛感しています。森内先生のご講義は、子どもの教育を保障するという学校の役割に自信と誇りをもち、勇気と決意をもって進んでいこうと背中を押してくださる内容でした。ありがとうございました。

執筆者

小澤 ちはる(小学校教員)

小澤 ちはる(小学校教員)

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