ウイルスセンター

森内浩幸先生の「子どもにとっての COVID-19」を聴講して

長崎大学大学院小児科学 教授 森内 浩幸 先生

長崎大学大学院小児科学 教授 森内 浩幸 先生

概要

まずは、子どもといっても小児科が扱う年齢層は幅広く、必ずしもひとくくりにはできない。その時々でどの年齢層について話題にしているのかに留意が必要である。

現在、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が全世界で猛威を奮っている。過去にもスペイン風邪のパンデミックなど、集団免疫のない社会に新しいウイルスが持ち込まれることにより、あらゆる年齢層に感染が拡大し、高齢者などで重症化や死亡例が多数出た。

感冒症状を引き起こすコロナウイルスは昔から存在している。HCoV-NL63、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-HKU1の4種類が知られており、多くが4~6歳までにこれらの感冒コロナウイルスに感染する。SARS-CoV-2もその一種であるが、新たなウイルスゆえ、あらゆる年齢層に感染が拡大し、中でも基礎疾患を有する人や高齢者を中心に重症化や死亡を引き起こし、全世界的に問題になっている。しかし実のところ、SARS-CoV-2だけでなく従来の感冒コロナウイルスも、下気道が発達途上である2歳未満の児、基礎疾患を有する人、高齢者などでは時に重症化する場合はある。従来の感冒コロナウイルスも新型コロナウイルスもその病原性や臨床像は似ているが、最大の相違点は疫学像の違いである。

これまでにも新興感染症の世界的な大流行は何度も起きてきたが、COVID-19感染症はかつてないスピードで全世界へと蔓延し多くの死者を出している。これは、移動、密集、高齢化という3つの要因から説明がつく。航空機などの発達により移動が活発になったこと。世界の人口は19世紀頃から急激に増加し、人口密度が非常に高くなったこと。人口の高齢化が進みハイリスク集団が膨らんだこと。これら3つの要因により、急速な感染拡大が起き、多くの犠牲者を出してしまった。

大人、特に高齢者で重症化が問題となっているCOVID-19感染症であるが、本邦の年齢階級別の陽性者率や死亡者数を見てみると、2021年7月時点では20歳未満の陽性者は11%、死亡数は0となっている。子どもが重症化しにくい理由として、次に示す4つの仮説を挙げている。

COVID-19感染症により我々の日常生活は大きく変わってしまった。新しい生活様式が徹底されたり、ワクチン接種が進められたりしているが、日々窮屈な生活が続いている。子どもと大人はある意味では別の生き物である。感染状況も子どもと大人では同じ枠組みでとらえることは正しくない。大人社会での感染実態を子どもたちの環境にも当てはめて、社会の感染拡大防止のために子どもの自由を奪うのではなく、拡大防止のために頑張っている子どもたちの努力にもしっかりと目を向けていくべきである。

COVID-19感染症が子どもで重症化しにくい理由:4つの仮説

仮説1

子どもは重症化のリスク因子となる肥満、高血圧、糖尿病、COPDなどの基礎疾患が少ない。

仮説2

「子どもは風邪の子」~普段から感冒コロナウイルスに曝されているために、免疫系がこの種のウイルスに適応している。また、その他の呼吸器ウイルスによる干渉作用を受けている。

子どもは感冒コロナウイルスに特異的なT細胞が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に交差反応する抗体を保有していることが多いことが判明している。弱いながらもSARS-CoV-2に対する中和抗体を有するため、SARS-CoV-2の感染にも適応することができるのではないかと考えられている。

仮説3

また、ライノウイルスを先行感染させた細胞培養でインフルエンザウイルスの増殖が顕著に下がるという報告があるが、そうしたウイルス干渉作用がSARS-CoV-2にもあるのではないか、ということもある。実験で同様なことが示されているが、実験上だけでなく、感染症患者報告数でも、ライノウイルスが流行した10歳未満小児では新型コロナウイルス感染症の患者数は少なかったが、ライノウイルスが流行しなかった10歳以上ではその患者数が多かった。ただし、この仮説に関しては、実際のところは、感冒コロナウイルスへの交差免疫は細胞性・液性免疫ともに実際の感染の場合と比べると非常に弱く、感染防御があるのかは疑問が残るところであること、また、ウイルス干渉作用に関しても自粛生活によって感染症が流行しない現状では、どこまで重感染が起こるのかは不明である。

仮説4

子どもはもともと自然免疫が強い上、生ワクチン接種や風邪などを繰り返すので、自然免疫記憶が高まり、COVID-19への抵抗性も付与される。

BCG接種が義務化されている国々ではCOVID-19の感染者、死亡者の増加率が有意に低くなっている。また、高齢者にBCGを接種するとウイルス感染全般または呼吸器感染全般への予防効果が有意に認められたことから、BCG接種によって自然免疫の能力が向上していたといえる。こちらの仮説に関しては、子供の頃に接種したBCGの効果が、高齢になっても持続しているのかは疑問が残るところではある。

風邪を繰り返しひくことによる自然免疫記憶の向上は、前述のように種々の感染症が流行しない現状ではあまり期待できない。

仮説5

子どもは重症化に繋がる免疫系の過剰反応を起こしにくい。

高齢者では免疫系が老化しているため、新たな病原体に効果的に免疫応答できず、炎症反応ばかりが蓄積することで重症化してしまう。一方で若年成人は、免疫系が過剰に反応してしまうために、それによる全身性炎症による障害が起こることがある。小児では一般に病原体に対して、そうした過剰な炎症反応を起こしにくい。

COVID-19感染症とその他の子どもにありふれた感染症の致死率を比較すると、RSウイルスやインフルエンザの致死率のほうが圧倒的に高い。上記の4つの仮説も踏まえると、SARS-CoV-2は子どもにとっては実は大騒ぎするほどの恐ろしい病原体ではないのかもしれない。それにもかかわらず感染が拡大するにつれ、世間は子どもたちのCOVID-19感染症に対しても厳しい目を向けるようになり、特に学校での感染拡大にネガティブになりすぎている。日本でも一斉休校や、デスクシールドの設置、会話禁止の給食時間など、さまざまな対策がとられてきた。確かに対面授業や部活動の実施により、学校内での感染は起こることもある。しかしあるアメリカの研究では、教師のマスク着用、連日体調チェック、課外活動の禁止などは感染拡大防止に効果があった(一方で、デスクシールドは感染防止には役立たないどころか逆効果という結果が出ている)。つまり適切な感染予防策をとれば、学校生活を極端に制限させなくても感染拡大を予防することは可能である。

子どもの新型コロナワクチンの接種に関して

子どもを新型コロナウイルス感染から守るには、周囲の成人への新型コロナワクチン接種を実施すること、重篤な基礎疾患のある子どもへのワクチン接種を実施することで介護などにより感染し重症化することから守ることがまず重要である。

若年者の新型コロナウイルス感染症では、欧米では心筋炎による突然死を起こした症例も報告されており、若いから重症化しないというわけではない。一方で、ワクチンの副反応はもちろんのこと、そのほかにも、子どもへの集団接種は血管迷走神経反射を起こしやすい年齢層であることや、年齢によってはワクチンそのものの安全性や有効性が治験段階であることもあり、ワクチン接種のデメリットや重症化しやすいのは基礎疾患を有する人や高齢者であることも踏まえ、健康な子どもへのワクチン接種はそのメリット・デメリットをよく吟味した上で実施するべきである。

コロナ時代と子どもたちの成長や心の発達

感染対策としてマスクを着用することは大切なことであるが、子どもにとっては良くない点もある。マスクを正しく扱えずかえって感染リスクが高まってしまうこと、呼吸困難や熱中症のリスクがあること、マスク着用により相手の表情が読み取れなくなってしまうことなどである。制限ばかりの生活で疲弊しているのは大人だけではない。感染予防のためにたとえば給食での会話禁止など、心の発達が阻害され、抑うつ傾向、情緒障害などを引き起こす可能性もはらんでいる。2020年は児童や生徒の自殺が激増した。感染対策を強化すればするほど子どもの心の発達が損なわれ、心の健康が蝕まれる。新型コロナウイルス感染症は大人の社会からもたらされ子どもたちにも感染を引き起こし、人々の生活を一変させてしまったもの。大人だけでなく子どもたちもこの危機に対して頑張っている。まだまだ終わりの見えない状況であり、感染症の終息に向けて、大人目線での対応だけでなく、子どもたちの幸せや生きていくことの楽しさを奪うことは最小限にして、今後も立ち向かっていく必要がある。

感想等

新型コロナウイルスは、連日メディアでも取り上げられ、人々の日常生活に多大な影響を及ぼしています。窮屈な暮らしを強いられているのは大人だけでなく、むしろ子どもたちのほうがつらい思いをしているということを改めて痛感しました。正しい知識を持ってコロナウイルスと向き合い、過剰になるのではなく、適切な形で対応していく必要があるのだとよくわかりました。興味深いお話を伺うことができ、大変勉強になりました。貴重なご講義を拝聴できましたことに、感謝申し上げます。ありがとうございました。

執筆者

獨協医科大学大学院微生物学講座・獨協医科大学病院初期臨床研修医 髙橋知里

獨協医科大学大学院微生物学講座・獨協医科大学病院初期臨床研修医 髙橋知里

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