ウイルスセンター

駒林賢一先生の「季節性コロナウイルスの疫学と培養」を聴講して

山形県衛生研究所微生物部専門研究員技師 駒林 賢一 先生

山形県衛生研究所微生物部専門研究員技師 駒林 賢一 先生

はじめに

山形県衛生研究所は全国の各都道府県に設置されている地方衛生研究所の1つです。山形県衛生研究所のHPでは、感染症情報として毎週のウイルス分離情報や山形県の感染症発生動向調査について公開しています。また、COVID-19時空間三次元マップ(山形県版)もHPで公開しています。この三次元マップでは、山形県におけるCOVID-19発生の時間的推移と地理的拡大状況を同時に示しており、それにより県内のCOVID-19流行の全体像を示すことができるそうです。

COVID-19の流行により、コロナウイルスへの注目がまた集まっています。ヒトに感染するコロナウイルスの基礎的なお話から、これまでの歴史的背景、ご自身の研究、そして今後の展望に至るまで、ご自身の体験談も踏まえて丁寧かつユーモアたっぷりに講義をしてくださいました。

概要

1.季節性コロナウイルス感染症の疫学

ヒトに感染するコロナウイルスには、風邪の原因ウイルスであるヒトコロナウイルス4種類(HCoV-NL63、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-HKU1)と、動物に由来しヒトに感染すると重症化することがある新興感染症3種類(SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2)が知られている。前者のコロナウイルス群は文献ではCommon cold coronaviruses(風邪コロナウイルス),Endemic coronaviruses(地域流行性コロナウイルス), Seasonal coronaviruses(季節性コロナウイルス)と記載はいろいろだが、ここではSeasonal coronaviruses(季節性コロナウイルス)とする。

報告によれば、風邪の原因となるウイルスはライノウイルスが最も多く、次いでヒトコロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルスと続く。ヒトコロナウイルスは2番目に多いにも関わらず、これまであまり研究されてこなかった。これは、上気道炎が主な症状で、下気道炎は5%未満で軽症ですぐ治ることが、研究対象となりにくかったことが理由のひとつであると思われる。

一方、2010年から2019年の山形県の調査では、季節性コロナウイルスが検出される率は8.9%で、内訳で見るとOC43>NL63>HKU1>229Eの順に多かった。1月から2月にかけて流行のピークを向かえ、陽性率が40%になることもあった。OC43とNL63はほぼ毎年流行し、 HKU1と229Eは2-3年に1度の流行だった。季節性コロナウイルスの流行期は、同じ呼吸器ウイルスであるインフルエンザの流行期と重なってみえた。

これまでに報告されているオランダ、アメリカ、中国での血清疫学調査によると、小児期の早い段階で感染を経験し、多くの大人がIgG抗体を持つということがわかっている。

2.HCoV-229Eが分離できるまで

山形県衛生研究所ではウイルス分離に7種(HEF、HEp-2、VeroE6、MDCK、RD-18s、GMK、LLC-MK2)の細胞を用い、細胞変性効果(cytopathic effect; CPE)確認後は、中和法もしくはPCR法でウイルスの種類を同定している。

過去に実施したウイルス検査で、培養細胞でCPEを認めたが原因ウイルスを同定できないまま保存されている検体があった。その未同定の検体について、遺伝子を抽出しRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法で検査した結果、HCoV-229Eが同定された。RD-18SでHCoV-229Eを分離できていたことがわかり、他のHCoVについても分離することができないか、色々な培養細胞で試したが分離できなかった。HCoVは分離培養が困難であることも、これまであまり研究されてこなかった理由のひとつと考えられた。

3.君たちの細胞はサンバしてるか?

ウイルス培養のホストには、マウスやサルなどの生体や生検材料や切除部位をほぐして使用する初代培養細胞、ガン細胞などに由来する不死化された細胞株がある。扱いやすさは、細胞株>生体、初代培養細胞で、生体の環境に近いのは、生体、初代培養細胞>細胞株である。扱いやすい細胞株でウイルスが増殖・分離できると研究がしやすい。

これまでのHCoVの分離は全て初代培養細胞で分離されていた。ヒト正常気管支上皮細胞を用いて4種のHCoVを検体から分離培養したという報告があったので、挑戦することとした。初代培養細胞(気管支上皮)を1ヶ月ALI(Air Liquid Interface、気液界面)培養すると分化し、繊毛が発現した。我々の細胞もサンバした!

4.4種類の季節性コロナウイルスが分離できてしまった

分化した初代培養細胞(気管支上皮)に遺伝子検査でウイルスの存在がわかっている検体を接種し、培養前後のウイルス遺伝子量を測定したところウイルス遺伝子量が増えており、4種のHCoVが分離できたことを確認した。NL63とOC43は接種後100日以上ウイルスを排出可能と考えられた。この分離培養で得られたウイルス粒子が感染可能なのか確認するため、新たな細胞に継代するとやはりHCoV遺伝子が増えていたため、感染可能なウイルス粒子が存在したことが確認できた。免疫染色でもウイルスを確認した。

検体からHCoVを分離し、分離株をさらに継代して増殖させることが可能になった。これにより、他の実験用の材料が用意でき、他の研究者に臨床株を分与できるようになった。更には、HCoVを研究し、新型コロナウイルスの制御に役立てる知見が得られることを期待している。

5.HCoV-NL63の野望

HCoV-NL63を初めて分離した2004年の文献では、tMK(カニクイザルの腎細胞3代目)を用いて分離し、それをLLC-MK2細胞に継代し、細胞株での培養が可能なことを確認していた。山形県衛生研究所では初代培養細胞にヒト気管支上皮細胞を使用した場合でも、LLC-MK2へ継代し培養出来るかを検討し、分離可能なことを確認した。しかし、検体から直接LLC-MK2細胞への接種では分離できなかった。初代培養細胞で培養したことにより、LLC-MK2で培養可能となる有利な条件ができるのだろうとのことだった。

HCoV-NL63が細胞株でも増やせたので、培養後、濃縮し、ウサギで免疫血清を作成し、感染細胞を染色することに挑戦したい。また得られた感染性のウイルスを抗原として用いて血清疫学的調査をやってみたい、更に遺伝子型の違いと抗原性の違いについての研究にも取り組んでみたい。

感想

季節性コロナウイルスについてこれまでの歴史的背景から改めて知ることができました。実際に駒林先生自身がHCoV-OC43に感染した体験談が面白かったです。日常のウイルス検査を研究に発展させ、株の分与や論文発表を行うことにより、山形県だけではなく、日本や世界の季節性コロナウイルスの発展に寄与しようという意気込みが感じられました。色々工夫してひとつひとつの課題をクリアしていく過程に、同じ地方衛生研究所の職員として非常に刺激を受けました。

駒林先生の野望の今後の展開を楽しみにしています。これからのますますのご活躍をお祈りいたします。

最後に、新型コロナウイルス感染症対応でお忙しい中ご講演いただきました先生方、ならびに企画・運営してくださった西村先生、増田先生をはじめ、多くの関係者の方々に感謝申し上げます。

以下は、質問の時間になされた先生に対する質問とお答えです。

Q

気管支上皮細胞ではCPEはおこすのか?

A

おこさない。

Q

アルファコロナ、ベータコロナ同士でリコンビネーションを起こすのか?

A

OC43についてはヒトの感染で起こすという報告がある。

Q

季節性コロナウイルスが同時に感染することはあるか?

A

同時検出例はあるが、報告は少ない。

Q

受容体がわかっているのに普通の細胞で培養できない理由は?

A

よくわかっていない。まだわかっていない受容体があるのではないか。

Q

なんで冬に患者が増えるのか?夏はどこにいるのか?

A

夏は別の地域で流行しているのではないか。

Q

初代培養細胞で長い期間ウイルスを出すのはなぜか?

A

細胞集団の再生力が強いためと考えられる。

執筆者

宮城県保健環境センター 微生物部 佐々木 美江 鈴木 優子 坂上 亜希恵

宮城県保健環境センター 微生物部
佐々木 美江 鈴木 優子 坂上 亜希恵

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