
東北大学 農学研究科 植物病理学分野 教授 高橋 英樹 先生
植物と動物には様々な面で異なる点がある。植物は地に根を張りその場に留まるのに対し、動物は動き回ることができるといった機能的な面や、栄養の獲得方法などがあげられる。細胞レベルでみてみると、植物細胞は細胞壁・葉緑体といった特有の構造を有するのに対し動物細胞はそれらを持たない。両者は常に細菌・真菌・ウイルスといった病原体の攻撃に曝されるため、それらから自身を守る免疫システムを有する必要がある。動物、特にヒトなどの哺乳類ではマクロファージや樹状細胞、リンパ球など免疫細胞が中心となって自然免疫応答・獲得免疫応答を誘導して感染を制御している。植物では分化の程度が低いため、そのような免疫に特化した細胞はみられない。しかし生体防御のための免疫応答は起こり、病原体の排除を行う。
植物にウイルスが侵入した際、宿主である植物は病原体に特有な分子パターン(Pathogen-associated molecular pattern: PAMPs)によって誘導されるPAMPs誘導免疫(PAMP-triggered immunity: PTI)とエフェクター誘導免疫(Effector-triggered immunity: ETI)によって生体防御を図る。これらはPAMPsによって誘導されるという点で、動物における自然免疫応答に類似している。
PAMPs: Pathogen-associated molecular pattern
PTI: PAMP-triggered immunity
ETI: Effector-triggered immunity
ウイルスは植物表面の小さなキズから侵入し、細胞内で増殖する。新たに産生されたウイルス粒子は、隣接している細胞に感染を拡げる。植物がウイルスに対して起こすPTIはRNAサイレンシングにあたる。
ウイルス増殖の際に産生される中間体である二本鎖RNA(dsRNA)をdsRNA切断酵素(DICER)で切断することで、siRNAが生じる。siRNAはタンパク複合体であるRISCに取り込まれ、最終的にsiRNAと相補的な配列をもつウイルスRNAを切断することでウイルスの増殖を抑える。
RNAサイレンシングは植物が侵入してきたウイルスに対して行う防御策であるが、それに対してウイルスは、サイレンシングを抑制するタンパクであるサプレッサーを産生することで、宿主のRNAサイレンシング機構を克服する。
一方で、それを受けた植物側はサプレッサーを認識するパターン認識受容体(Pattern recognition receptor:PRR)を獲得することでサプレッサーをターゲットにした免疫反応を誘導する。このPRRによるサプレッサーの認識がETIにあたる。
PRR: Pattern recognition receptor
サプレッサーを認識されるようになったウイルスは変異によってPRRの認識を回避できるようなる。それに対して、植物は新たにPRRを獲得することで変異したウイルスを認識できるようになる。ウイルスの変異に対応した結果、植物の遺伝子には数多くのPRRがコードされている。イネなどの歴史が古い植物では、およそ600ものPRRがコードされていてウイルスとの戦いの歴史がみてとれる。
野生の植物はたびたびウイルスの不顕性感染を受けていると考えられているが、それが宿主へ及ぼす影響については未だ不明な点がある。
キュウリモザイクウイルス(CMV)は3分節のRNAをもち1,200種以上の植物を宿主とするウイルスであり、感染によって葉に斑点が生じるといった病変がみられる。
だが、CMVでも Ho系統では、シロイヌナズナへの接種で、感染は拡がるが病変は確認されない不顕性感染が見られる。病変を示す株・示さない株のゲノムをもとに、組み換えウイルスをつくり、それによる感染実験を行った。その結果、第2分節のRNAがコードするRNAサイレンシングサプレッサーである2bタンパク質にあるアミノ酸変異が、病原性の有無に関与していることを明らかになった。
だが、それは2bタンパク質のサプレッサー活性そのものには変化をもたらさなかった。2bタンパク質はDNAのメチル化に関与しているAGO4タンパク質に結合することが知られている。そのため、DNAのメチル化を評価してみた。その結果、Ho系統の感染によってメチル化に変化が生じていることがわかった。CMV Ho系統の感染が、宿主であるシロイヌナズナのDNAのメチル化に変化をもたらし、それが不顕性感染につながったのかもしれない。CMVの不顕性感染状態となった宿主は、環境ストレスなどに対して耐性をもつようになるようである。
植物のウイルス学・免疫学という馴染みのない分野でしたが、分かり易く興味深いご講演でした。感染を防ぐための植物の進化、排除を免れるためのウイルスの変異、どちらも生存のために絶えず変化を続け攻防を繰り広げていることにストーリー性を感じ非常に面白かったです。
また植物ウイルスが起こす不顕性感染のメカニズムについて実際に行った実験も含めてご紹介頂きました。植物ウイルスの不顕性感染はもちろん、植物へのウイルス感染や感染の確認方法など実験手技についても初めて聴くものばかりで大変勉強になりました。
聞き慣れない単語も多く、完璧に講演についていけていたとは言えませんが、聴講録を書くにあたって理解できていなかったことを調べながら振り返ることで理解が深まったのではないかと思います。興味深いお話をありがとうございました。

仙台医療センター・ウイルスセンター 北井優貴
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