ウイルスセンター

「The age of phage ~歴史的背景から人工ファージの創出まで~」を聴講して

アステラス製薬(株)研究本部 Principal Investigator,
岐阜大学医学系研究科ファージバイオロジクス研究講座 特任准教授 安藤 弘樹 先生

アステラス製薬(株)研究本部 Principal Investigator,
岐阜大学医学系研究科ファージバイオロジクス研究講座 特任准教授 安藤 弘樹 先生

概要

1. ファージについて

ファージ (Phage) は細菌に感染するウイルスの総称である。多くのファージはカプシドの頭部と尾部から構成される。頭部はタンパク質の外殻と遺伝情報を担う核酸 (主に二本鎖DNA) からなり、尾部は細菌に吸着し、細胞内にファージの核酸を送り込む機能を持つ。宿主特異性があり同一菌種でも株が異なると感染できないことも多い。溶菌ファージは細菌内で増殖し、最終的には菌を溶かして宿主細菌を死滅させる。ファージは宿主細菌のいるところどこにでも存在すると考えられる。地球には1030粒子程度が存在していると見積もられており、地球全生物の総数より多く、存在意義はまだ不明なことが多い。ファージ研究は20世紀初頭にフレデリック・トウォートとフェリックス・デレーユによって独立に発見された。

2. ファージ療法

ファージ療法の歴史は90年前頃から始まり、当時フェリックス・デレーユは細菌性赤痢、コレラなどヒトに対するファージ療法、動物に対するファージ療法を実施して成果をあげていた。1940年代~1960年代には抗菌薬が次々と発見されてファージ療法は廃れてしまった。しかし、薬剤耐性菌が増加し、なにも対策が取られないと2050年には薬剤耐性細菌感染症が死因の1位になると予想されていて、その対策が世界的なプロジェクトとして進行している。その1つとして非伝統的治療法としての古くて新しいファージ療法の研究開発が期待されている。

ファージ療法の実例

1) 防除
リステリア菌による食中毒の予防(除菌)。食肉およびその製品、鶏など家禽肉およびその製品などの調理済み非加熱食品を包装する前にファージをスプレーして殺菌する。
2) 溶菌酵素
溶菌酵素による治療。バイオテロ(例えば炭疽菌)に対する対抗策。
3) 多剤耐性菌の治療
多剤耐性Acinetobacter baumanniiの感染症による危篤状態から、ファージの静脈投与により治癒したパターソン症例。
4) 改変ファージを用いたファージセラピー
多剤耐性Mycobacterium abscessusに感染した患者を改変ファージカクテルで治療した症例。
5) EU主導の多施設臨床試験
Pseudomonas aeruginosaに感染した火傷を治療するためのファージカクテルの有効性を検討する臨床試験においてファージをカクテルすると力価が下がることが判明した。

3. 次世代ファージ療法について

ファージ療法には多剤耐性菌に有効で費用対効果に優れているという長所がある。一方、ファージ耐性菌の出現、ファージの遺伝学的改変が困難なこと、ファージカクテルにすると力価が下がることや安全性の証明などの問題点がある。また、一般的に宿主特異性が狭く、治療目的で広く利用するためには、ファージを改変し、数多くの細菌に対応できるようにする必要がある。

そこで安藤先生は合成生物学を応用し、特定の機能を持ったファージを人工的に作成した。最初にコンピュータで必要なDNAパーツをデザインし、次に実際のパーツを組み合わせ、開発したプラットフォームを用いて人工バクテリオファージへと構築、起動させる。この方法で大腸菌に感染するT7ファージの宿主特異性のデザインを改変し、肺炎の原因となるクレブシエラ属菌やエルシニアに感染する人工バクテリオファージを生成することに成功している。さらに腸内細菌叢は健康や病気に深く関わっていることが報告されているため、腸内の悪玉菌だけを殺し、善玉菌を残す人工バクテリオファージを作成し腸内細菌を編集する実験にも成功している。

現在は次世代ファージ療法の実用化のために人工ファージの生物学的封じ込め法の研究をしている。

感想

バクテリオファージとは?から研究歴史、そして現在の研究についてのご講演を拝聴しファージといえばMRSAの型別しか知らなかった私でも少しだけ理解できたように感じました。ありがとうございました。私は大学病院で長い間細菌検査に従事していました。ちょうど新しい抗生剤が次々と開発され、MRSAや多剤耐性緑膿菌や多剤耐性の環境菌、ESBLなどが問題になっていく時代でした。抗生剤でカバーできない多剤耐性菌の治療を新しい方法で行う必要性を感じていたので人工ファージで行う技術に感動しました。

患者様の検体を分離培養するときにいつも疑問に感じていることがありました。それは正常細菌叢(常在菌)についてです。喀痰や咽頭、便検体で使用している培地上だけでも十数種類はいて、種類の多さに立ち竦む思いでした。それが微妙なバランスで存在しています。抗菌薬の影響以外でどうやって増えすぎず減りすぎず存在し得るのか解らないことばかりです。講演をきいてファージの働きもあるかなと思いました。

新しい治療薬の開発・実用化とともに常在菌叢についても解明していただけることを期待します。フロアからの質問は新しい治療薬ということで人体への影響に関することが多かったです。これらの疑問も常在菌とファージの関係が明らかになると解決されるのかなと感じました。

これからの安藤先生の研究に期待します。ありがとうございました。

執筆者

仙台医療センター・ウイルスセンター 太田玲子

仙台医療センター・ウイルスセンター 太田玲子

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