ウイルスセンター

「エンテロウイルス71型感染における受容体の役割―ウイルスを助ける受容体と 邪魔する受容体―」を聴講して

東京都医学総合研究所ウイルス感染プロジェクト主任研究員 小林 郷介 先生

東京都医学総合研究所ウイルス感染プロジェクト主任研究員 小林 郷介 先生

はじめに

手足口病は夏季に乳幼児において多発する、手の平、足の裏、口腔内の水疱形成を引き起こす感染症で、唯一中国においてワクチンが製造されているものの、ワクチン及び有効な治療薬のない疾患である。エンテロウイルス71型(EV71)による手足口病では、5歳以下の子供において時に重篤な中枢神経合併症(髄膜炎、脳炎)を引き起こし、特に中国をはじめとするアジア太平洋地域で問題になっている。本講義で小林先生は、human scavenger receptor class b member 2 (hSCARB2)がEV71の宿主細胞内への侵入に重要な受容体であること、また、EV71のカプシドタンパク質であるVP1の一アミノ酸置換がEV71の病原性を決める要因の一つであることを講義してくださった。

エンテロウイルス71型(EV71)とは?

EV71はピコルナウイルス科のエンテロウイルス属エンテロウイルスA型に属し、同じく手足口病の原因となるコクサッキーウイルスA16、A6などと異なり、5歳以下の子供において稀に中枢神経症状(髄膜炎、脳炎)を引き起こすことが知られている。近年、日本では手足口病の患者から分離されるウイルスとしてコクサッキーウイルスA16やA6が主流である一方、中国などのアジア太平洋地域においては、EV71が猛威を振るい、中国では2008年から2011年にかけて1890人もの死者が報告されている。

EV71は、直径約30nmのエンベロープを持たない正二十面体のカプシドからなる粒子で、その中に11種のタンパク質をコードする遺伝子を含むプラス一本鎖RNAのゲノムを有している。また、正二十面体のカプシドはカプシドタンパク質のVP1、VP2、VP3とそれらを裏打ちするVP4からなる構造単位(プロトマー)が5つ組み合わされたペンタマーを12個組み合わせる形で構成される。さらに、正二十面体の性質から、対向する頂点を結ぶ5回対称軸(この軸を中心に一周した時5回同じ形になる)、対向する面の中心を結ぶ3回対称軸、対向する辺の中心を結ぶ2回対称軸を持つ。

human scavenger receptor class b member 2 (hSCARB2)とは?

hSCARB2はヒトの全身で発現し、不要なタンパク質などをリソソームへ輸送する細胞内タンパク質である。しかしながら、一部のhSCARB2は細胞膜に存在し、EV71やコクサッキーウイルスA7、A14、A16といったエンテロウイルスの受容体となる。エンテロウイルスの受容体として報告されているものには、PSGL-1、Annexin II、シアル酸、ヘパラン硫酸、Vimentin、Nucleolinもあるが、hSCARB2はEV71と結合するだけではなく、脱殻を起こさせてウイルスの侵入を誘導するところに特徴がある。hSCARB2はEV71のキャニオン(5回対称軸と2回対称軸の間のへこみ、5回対称軸を同心円状に取り囲む)と結合すると、2回対称軸付近に孔が開き、ゲノムRNAを放出すると考えられている(その前提条件としてエンドソーム内の低pH環境が必要)。

また、hSCARB2はウイルス感染の宿主特異性を決めていると考えられ、マウスのSCARB2ではEV71の結合・脱殻を起こさないため、マウスにEV71は感染しない(乳のみマウスは例外的に感染が成立する)。一方で、hSCARB2を発現するトランスジェニックマウスではEV71が感染し、中枢神経症状を示して強毒株においては死亡する(ただし、こちらは手足の水疱形成はない)。

培養細胞による継代で変化する病原性

EV71は日本においても高い病原性を示す例が報告されているが強毒株、弱毒株ウイルスというものが実際に存在するか否か、存在するとしてそれらの違いが何に基づくのかについては長い間検証できなかった。そこで、hSCARB2-Tgマウスで感染実験を行ったところ、日本の分離株の中にも病原性のばらつきが存在し、全く症状が出ない株、4日目に症状が出ても回復する株、7日目にはマウスが死亡してしまう株が存在することがわかった。

そこで、日本、ベトナム、マレーシアの臨床分離株について病原性評価を行うにあたり、譲渡された日本の株を培養細胞でいったん増やしたのち、hSCARB2-Tgマウスへの感染実験を試みた。しかしながら、驚いたことに継代前の株を投与するとTgマウスは全滅するにも関わらず、培養細胞で継代した後ではTgマウスが全て生存した。

一アミノ酸置換と病原性

継代前と継代後でEV71を比べたところ、VP1の145番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)からグリシン(G)またはグルタミン(Q)に変化していた。VP1-145がEの強毒株とG/Qの弱毒株について比較すると、カプシドの5回対称軸付近の電荷がG/Qでは正に荷電する一方で、Eでは正電荷が打ち消されて弱くなっていた。また、両者のhSCARB2結合能に差はないものの、培養細胞におけるウイルスの増殖性はVP1-145EよりもVP1-145G/Qで早かった。

ヘパラン硫酸と培養細胞における増殖性

EV71のVP1-145EとVP1-145G/Qの性質の違いとして、ヘパラン硫酸への結合能があり、VP1-145EよりもVP1-145G/Qで結合能がより強かった。ヘパラン硫酸は負に荷電する直鎖の多糖類で、生体内ではタンパク質と結合し、プロテオグリカンを形成して細胞膜表面や細胞外基質などに存在し、様々なものと結合する性質を持つとされている。EV71の継代に使用していた細胞はRD細胞でヘパラン硫酸の産生能が高い細胞であった。そこで、ヘパラン硫酸の合成酵素EXT1およびEXT2をCRISPER/Cas9システムを用いてノックアウトしたRD細胞を作製し、VP1-145EとVP1-145G/Qで増殖性を観察した。その結果、VP1-145EはWTのRD細胞とKOのRD細胞で増殖性に変化がなかったのに対し、VP1-145G/QではWTのRD細胞に比べてKOのRD細胞では10分の1ほどの増殖性に低下した。

また、EXT1/2-KO RD細胞、hSCARB2過剰発現RD細胞、EXT1/2-KOかつhSCARB2過剰発現RD細胞においてVP1-145EのEV71ウイルスを3代継代し、VP1-145のアミノ酸を観察した。その結果、EXT1/2-KO RD細胞では1回目の継代でVP1-145G/Qへと弱毒化した。hSCARB2過剰発現RD細胞は1回目の継代においてはVP1-145Eであったが、3回目で弱毒化した。しかし、EXT1/2-KOかつhSCARB2過剰発現RD細胞は3回の継代で弱毒化せず、VP1-145Eを維持した。

以上の結果は、VP1-145G/Qがヘパラン硫酸に結合することで、培養細胞へVP1-145Eよりも感染しやすくなることを示唆する一方、ヘパラン硫酸以外にもEV71を弱毒化させる因子の存在をも示唆するものであった。

生体内でのVP1-145EとVP1-145G/Q

培養細胞においてはヘパラン硫酸がVP1-145G/Qのいわば受容体となり、感染性を助ける役割をしていた。しかし、hSCARB2-Tgマウスへの感染実験では全てのマウスが生存するほど弱毒株である。つまり、生体内ではヘパラン硫酸が逆にVP1-145G/Qの血流内における拡散を阻害している可能性が考えられた。そこで、VP1-145EとVP1-145GをhSCARB2-Tgマウスへ感染させ、継時的に血液および臓器を採取し、ウイルス量を測定した。すると、VP1-145Gは投与後30分で血中ウイルス量が投与直後の100分の1に低下し、4時間まで維持されたのち排除されていた。一方、VP1-145Eは投与直後のウイルス量が4時間まで維持され、24時間後には脳・脊髄でウイルスの増殖が始まっていた。一方で、VP1-145Gは脳・脊髄まで到達していなかった。また、すりつぶした肝臓をウイルス液と混ぜ、その上清中に含まれるウイルス量を比較すると、VP1-145Gは肝臓の量依存性に上清中のウイルス量が減少し、一方でVP1-145Eは肝臓の量に依存せず元のウイルス液の70%程度のウイルス量を維持していた。

つまり、VP1-145Gは生体内において豊富に存在するヘパラン硫酸に標的組織へたどり着く前にトラップされてしまっているために、中枢神経に到達できずそこでの症状を起こしていないことが考えられた。

結論として、EV71が感染するために必須な受容体であるhSCARB2に加えて、ヘパラン硫酸との結合能がEV71の病原性に関与すると考えられる。本講義にて講義してくださったEXT1/2-KOかつhSCARB2過剰発現RD細胞によるウイルス継代により、臨床分離株の病原性評価を行うことができ、今後のEV71の病原性因子の解明やワクチン開発、自然免疫応答システムとの関連等の研究の進展が期待される。

小林先生への質問

Q1

hSCARB2とEV71が相互作用するときの形態変化について?

A

すでに先行研究によりpHを変化させたときのhSCARB2の形態が明らかになっている。

Q2

VP1-145はヒトにおける中枢神経症状等の重篤化に関与するか?

A

ヒトに感染する株はVP1-145Eのみであり、関係はないと考えられる。

Q3

アミノ酸変異によって側鎖の性質が変わるのかタンパク質の構造が変わるのか?

A

おそらく、側鎖の性質(特に電荷)の変化があると考えられるが、アミノ酸をアスパラギン酸に置換するとタンパク質の構造そのものに支障をきたすので、置換できるアミノ酸は限られてくる。

Q4

EV71に対する治療法として阻害物質の探索が良いのか薬の開発が良いのか?また、薬であれば、ウイルスをやっつける方向で行くのか宿主の免疫を助ける方向で行くのか?

A

阻害物質や薬の開発は他の先行研究があるが、小林先生はワクチン開発を目指している。

Q5

EV71の受容体と呼ばれるものが複数存在するが、hSCARB2のように脱殻を起こすものと起こさないものの差は何か?

A

キャニオンに入るか否かだと考える。

Q6

標的組織以外におけるヘパラン硫酸やhSCARB2発現量は?VP1のアミノ酸置換を人為的に起こして標的組織を変えられるか?

A

現時点では不明である。

Q7

VP1-145Eでプラークアッセイをするとプラークサイズが大きくなるのはなぜか? ウイルスが放出した際にVP1-145G/Qは細胞表面のヘパラン硫酸にトラップされてしまうためか?

A

プラークアッセイで重層するメチルセルロースにVP1-145G/Qが吸着してしまい、ウイルスの拡散が阻害されるので、VP1-145EよりもVP1-145G/Qのプラークサイズが相対的に小さくなると考える。また、ヘパラン硫酸KO細胞を用いたプラークアッセイでもVP1-145G/Qのプラークサイズが相対的に小さくなったことから、細胞表面のヘパラン硫酸はプラークサイズに影響はしていないと考える。

Q8

キャニオンの詳細なタンパク構造やhSCARB2との結合残基の同定は?

A

まだ解明されていない部分である。

Q9

Tgマウスで手足口病のような水疱形成がなく、中枢神経症状のみなのはなぜか?

A

まだ解明されていない部分である。

Q10

ヘパラン硫酸は受容体と呼んでいいのか?

A

広義の意味で吸着するものも受容体と呼ぶことがある。このような受容体をAttachment receptorと言っている。

感想

手足口病は今年も流行の注意喚起があり、本講演会で取り上げられたことはとてもタイムリーだと思いました。hSCARB2がEV71に結合すると脱殻が起こるという現象はとても興味深く、より詳細な機序を解明して頂きたいと思いました。また、講演の初めの部分では、hSCARB2以外に受容体として候補に挙がっていた因子(PSGL-1、Annexin IIなど)について、EV1にとりあえず結合するだけで報告されたものかと思っていましたが、講演が進むにつれて、ヘパラン硫酸が病原性に関与するということがわかり、他の因子についても何かしらの役割があると面白いなと思いました。ヘパラン硫酸の役割の発見では、臨床分離株が培養細胞において弱毒化してしまうというハプニング?を新たな研究に結び付けていくところがとても勉強になりました。小林先生の講演はとても丁寧でわかりやすかったので、初心者の私でもすんなりと理解することができました。

私は今まで違う分野の研究をしていて、今年の4月から大安研でウイルスを扱い始めたので、ウイルスについて改めて学ぶ機会を持ててとてもよかったです。また、地方衛生研究所に所属していると疫学的な研究に触れる機会が多くて、今回みちのくウイルス塾で拝聴するような基礎的な研究はとても興味深く思いました。

執筆者

地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所 森ノ宮センター微生物部ウイルス課 尾之内 佐和

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