ウイルスセンター

「研究の進展で見えてきたノロウイルスの本当の姿」を聴講して

北里大学感染制御科学府ウイルス感染制御学I教授 片山 和彦 先生

北里大学感染制御科学府ウイルス感染制御学I教授 片山 和彦 先生

はじめに

近年、ノロウイルスは、ヒトで感染症及び食中毒の原因ウイルスとして世界的に猛威を奮っており、培養法が確立されていないことから、その効果的な予防法や治療法の開発は進んでいない。今回、オルガノイドを用いたノロウイルス培養法の研究について、片山先生のお話を伺った。

概要

ノロ研究の歴史

ノロウイルスのプロトタイプであるノーウォークウイルスは、1990年にRNAの全塩基配列が決定された(ノロウイルスという命名は2002年)。ゲノムは3つのORF(ORF1、ORF2、ORF3)を持ち、複製時に、構造タンパク質をコードするORF2及び3からなるサブゲノムを作り、構造タンパク質を大量生産する。

上記ORF2及び3をバキュロウイルスに組み込み、VLPs(ウイルス様粒子)を大量生産させ、クライオ電子顕微鏡を用いてアミノ酸レベルで観察すると、ノロウイルス粒子もVLPsもほぼ同じであった。VLPs表面アミノ酸は多様性に富み、5つのグループ(GI~GV)に分けられた。ヒトに関与するものはGI、GII及びGIV(まれ)で、ヒト⇔ヒト感染のみである。2002年に、組織血液型抗原(HBGA)にVLPsが結合することが発見された。

ノロウイルス培養のキーは、細胞への入り口

ノロウイルスRNAを、直接、ヒト株化細胞(293T、Huh7、Caco-2など)内に入れるとウイルスは作られるが、出てきたウイルスが新たに感染することはできない。

「レセプターさえ分かれば。HBGAは本当にレセプターなのか?」
そこで、Caco-2にHBGA(Type H1- 、H2-、Leb)を発現させ、VLPsとの結合を観察したところ、HBGAの発現していないところにも結合した。続いて、ヒトの腸をバイオプシーで入手し、HBGAに結合するVLPs、HBGAに結合しないVLPsを使用した実験を行ったところ、上皮細胞及び杯細胞に、HBGAに結合しないVLPsも侵入した。よって、真のレセプターは別にあるのではないかと考えられた。

ネズミのレセプター探し

ネズミノロウイルスは、増殖ウイルスを、新たにRAW264.7(ネズミ由来細胞)に感染させることができる。なお、感染したRAW264.7は死亡する。そこで、RAW264.7の遺伝子をCRISPR/Cas9でランダムにノックアウトし、ネズミノロウイルスを感染させ、RAW264.7の生死とノックアウト遺伝子を次世代シークエンサーで調査したところ、CD300lf遺伝子ノックアウトRAW264.7のみ生存した。さらに、ヒトを含む様々な動物の細胞にCD300lf遺伝子を導入したところ、ネズミノロウイルス感受性となった。よって、CD300lfがレセプターであると考えられた。

ヒト小腸オルガノイドを用いた感染実験

ヒトのレセプター探しに向かう前に、オルガノイドを用いた感染実験を行った。オルガノイドとは、小腸の上皮細胞や杯細胞が、小腸クリプト(腺窩)で幹細胞から分化する性質を利用し、クリプトから幹細胞を増やし、分化増殖因子によって、外側にクリプト、内側に上皮細胞を擁した塊を形成させたもので、慶応大学の佐藤先生、オランダのクレバー先生が開発した。96プレート1枚で7万円の時代である。

オルガノイドに対して、ノロウイルスGII.4の感染を確認できた。レセプター、中和抗体価、消毒効果などを調査できる。なお、調査では、ある種の血清は、中和抗体価は高く、HBGA結合阻害能は高くないことが示唆されているところである。

調査継続中

  • ヒトのレセプター探し
  • ヒトノロウイルス感染モデルマウスの作出

質疑応答

Q1

マウスの樹状細胞でもCD300lfは発現しているか。

A

CD300lfは様々な細胞で発見されており、免疫担当細胞では高率で発現している。ヒトのノロウイルスは樹状細胞でも見られ、貪食しているのかレセプターを介して侵入しているかは不明。

Q2

オルガノイドで、ウイルスを5日間感染させて感染率50%は少ないように思うが。

A

オルガノイドは上皮全体の再現であるため、4種類の上皮のうち、ウイルスが2つに結合すると考えると50%くらいになるのではないか。

Q3

VLPsの発現系に、大腸菌などではなく、バキュロウイルスを用いるのは特別な理由があるか。

A

その他の系では、発現タンパクのほとんどが封入体となり可溶性タンパクにならない。一方、バキュロウイルスの場合は、ポリへドリンという可溶化しやすく自己結晶化しやすいタンパクを大量に発現するため、都合が良い。

Q4

シングルセルソーティングで、感染と非感染はどのように分けるか。

A

ソートの段階では分けない。mRNAがウイルス由来のものか否かで感染・非感染を判断。

Q5

ノロウイルス以外にも、他の腸管ウイルスでのオルガノイド感染モデル例はあるか。

A

ロタウイルスの報告あり。アストロウイルス、サポウイルスなどは遅れている。

Q6

オルガノイドのコストが高く感じる。作っているのか、買っているのか。

A

オルガノイド自体は慶応大学から譲渡してもらった。コスト面では、増殖因子が高く、安く代わるものを作っていただきたい。

Q7

複数遺伝子群の混合感染は試されたか。

A

まだである。ただし、GII.4は見境なく感染するタイプだが、他のものは気難しいタイプである。レセプターが違ってくるかもしれない。

Q8

組換えが起こるということは共感染すると思うのだが、実験上はどうか。

A

わからない。遺伝子を混ぜて実験することは可能だが、ヒトの体の中で起こる組換えと試験管の中で起こる組換えは頻度が異なるであろうと考えられる。

Q9

臨床試験段階にあるワクチンは血清抗体だと聞いているが、腸管IgAの方が良いのではないかと感じる。IgGは効果があるのか。

A

おっしゃるとおり、IgAを誘導するようなものを作った方が良いと考える。粘膜免疫を上げようと鼻腔噴霧を試したが結果は芳しく無く、筋注という誘導方法となった。

Q10

腸管の分泌型IgAを調べることは可能か。

A

可能だが、定量ができない。最近は、免疫担当細胞ヒト化ネズミを作り、その中のIgA分子を分泌する責任細胞を定量することができるので、そこから誘導の接種ルートを決定することができるだろう。

Q11

一度感染しても、同じ型のノロウイルスに再度感染するのか。

A

かかるというデータあり。かかりにくくはなる。

Q12

ノロウイルス患者の中には、1ヶ月以上ウイルスを排泄している人がおり、獲得免疫もできていると思うが、中和抗体は出来にくいのか。

A

血中の中和抗体は、大人であれば95%以上は持っている。しかし、その中和抗体と分泌型IgAがどの程度相関するか、そして、排泄されたウイルスも腸管上皮から出ているウイルスなのか、全身を回っている免疫担当細胞のウイルスなのか不明。

感想

ノロウイルスに関する最新の情報を、数多く学ぶことができました。先生方の研究が、遠くない将来、人々の福祉に役立つ日が来ると感じました。我々、行政側も、常に情報収集を怠らず、探究心を失わずに日々の業務に励んでいきたいと思います。培養法の確立していないノロウイルスに対し、アメリカでは、なかなかのお値段で有償の人体実験を行っているとお聞きしました。私は、医学の発展のためなら、無償でこの身を捧げる覚悟ですが、一番良いのは片山先生の研究により、培養法が確立することだと思います。この度は、大変貴重なお話を聞かせていただきまして、誠にありがとうございました。ご講演いただいた先生方をはじめ、仙台医療センターのスタッフの皆様に深く感謝申し上げます。

執筆者

阿部 隆樹

宮城県石巻保健所 阿部 隆樹

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