ウイルスセンター

「C型肝炎治療の進歩と今後の展望」を聴講して

東京医科歯科大学消化器内科・肝臓病態制御学講座教授 朝比奈 靖浩 先生

東京医科歯科大学消化器内科・肝臓病態制御学講座教授 朝比奈 靖浩 先生

はじめに

近年、C型肝炎の治療は劇的に進歩してきました。C型肝炎ウイルスの基礎的なお話から、治療法の原理や歴史的背景、治療法の進歩、ご自身の研究、そして今後の展望に至るまで、臨床医としての立場と実験医学の視点から丁寧に講義をしてくださいました。

概要

肝炎とウイルス

世界的に、ウイルス肝炎関連死は1990年には89万人で死亡原因の第10位であったが、2013年には145万人で第7位にまで上がっている。肝炎ウイルスには、A・B・C・D・E型の5つの型があり、中でもB・C・D型肝炎ウイルスは慢性化し、肝硬変や肝がんを引き起こすことが知られている。日本でも肝がんでの死亡者数は多く、5大がんの一つに数えられている。その中でC型肝炎ウイルスによるものが全体の約75%を占めており、このウイルスの排除が肝がんの予防にとって重要である。

C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus: HCV)

HCVは1989年に発見されたフラビウイルス科の一本鎖RNAウイルスであり、コア・エンベロープ・p7・NS2・NS3・NS4A・NS4B・NS5A・NS5Bタンパクを持つ。NS3タンパクはプロテアーゼ活性を持ち、合成された前タンパクを自己分解することでウイルスタンパクの生成に関与し、NS5AはHCVの複製に関与する。宿主細胞に感染したHCVは、細胞内センサーとしてのRIG-Iによってウイルスゲノムが認識され、IPS-1、STINGを介して産生されるインターフェロン(IFN)などの抗ウイルス蛋白によって排除されるが、演者らの検討ではHCVはNS3がIPS-1を、NS4BがSTINGをブロックすることで自然免疫から逃避する機能を持ち、これらがウイルス感染の慢性化に寄与していることが明らかとなった。

IFN治療

IFNがHCVの排除に関与することから、1992年にいち早く治療薬として実用化された。しかし、ゲノタイプ1型・高ウイルス量症例などの難治例において効果の得られた人は良くて全体の4割程度にとどまっていた。それらについて詳しく解析した結果、難治例では治療前の自然免疫系が既に亢進しており、IFN投与による自然免疫の応答が不良であった。また、その自然免疫応答を規定する因子としてIL28B(IFNλ3)近傍のSNP(一塩基多型)が関与することが明らかとなった。

直接作用型抗HCV薬(DAA製剤)

上述の、IFNのみによる治療法の限界からHCVに対して直接作用する薬の登場が待たれていた中、2011年にNS3をターゲットとした最初のDAAであるTelaprevir(TVR)が登場し、IFN治療との併用によって8割程度の症例にHCV排除が得られる様になった。しかし、IL28B(IFNλ3)SNPにrisk alleleを有する患者ではTVR/IFN併用療法でも効果が弱く、IFNによる強い副作用も問題であった。そこで、生まれつきの体質(SNP)に影響されず、副作用の少ないDAAだけでの治療法が必要とされたが、TVR単独療法では耐性ウイルスが出現してしまうという問題があった。これは、TVRの作用部位であるNS3のプロテアーゼ活性ドメインがアミノ酸変異を起こすことが原因であった。このような背景から、様々な作用機序を持つDAAの開発が望まれてきた。

近年、国立感染症研究所 脇田隆字先生が開発したHCV感染・培養系により、これまで解析が困難であったHCV生活環の全容を解明する研究等が進み、抗ウイルス薬のスクリーニングも可能となった。このHCV培養系の確立とHCVレプリコンシステムの開発によって飛躍的にDAAの開発が加速し、第2世代NS3プロテアーゼ阻害薬、NS5A阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬など多くのDAAが次々に生み出されてきた。中でもウラシル(U)とよく似た構造を持つSofosbuvirはポリメラーゼを阻害することで強力にウイルスの複製を阻害し、なおかつ耐性ウイルスを生じにくい治療薬として注目されている。このように多くのDAAが開発されたことで、複数のDAAを組み合わせてIFNを使用しない、いわゆるIFNフリー治療が開始され、2016年には99%の症例でウイルス排除が可能となった。現在日本で用いられているIFNフリー治療は1~6型まであるHCVの遺伝子型によってDAAの選択が異なるが、最近では遺伝子型を選ばない”pangenotypic”な治療薬も開発されてきた。IFNフリー治療は、副作用が少なく12週間の治療期間で済むが、1錠8万円(1コース670万円、最初に承認された時の薬価)と高価である。しかし、回復後の労働生産性を考えると決して高くはないだろう。

このようにDAAがC型肝炎の治療薬として非常に有効である一方で、治療失敗例ではアミノ酸変異による多剤耐性ウイルスの出現の問題も指摘されるようになってきた。演者らの検討ではNS5Aの多重変異ウイルスでは、ウイルスの粒子形成能が亢進し、薬剤に対して高度耐性なだけでなく、増殖能も亢進する可能性が示唆されている。

今後の展望

IFNフリー治療によりHCV排除率は飛躍的に向上したが、C型肝炎治療の最終目標である肝がんの抑止が達成されるか否かについてはまだ十分なエビデンスはない。IFNは抗ウイルス作用だけではなく抗腫瘍作用も持つが、抗ウイルス作用だけを有するDAAによるIFNフリー治療によっても、IFN治療と同様の発がん抑制効果が得られるかが問題となる。演者らの検討ではIFN治療とDAA治療の間では、発がん率に差はなかったことから、IFNフリー治療によっても、HCV排除により発がん抑止効果は得られると考えられる。しかし、肝炎ウイルスが排除されたにもかかわらず、がんを発症する患者さんが一定の割合で見られることから、そのリスク因子の同定と、ウイルス排除後の発がん機構の解明、さらには肝がんの治療法の確立をめざす必要があり、発がんに関連するヒト遺伝子の次世代シークエンスを用いた解析が始められている。その解析の中で、TERTに変異のある患者では予後が不良であること、肝がんではHBVのゲノムがTERT近傍に挿入されることが多いことが明らかとなった。HCVと異なりHBVに対しては根治薬はないが、演者らはヒトiPS細胞を用いることでHBVの培養を可能としたため、今後HBVに対する創薬が期待される。

感想

例年、学生さんたちに聴講録書きをお願いする立場でしたが、今回は自分自身が書き手になるということで、いつもと違った緊張感をもって聴講させていただきました。

朝比奈先生には、HCVの基礎的な部分から最新の研究に至るまで丁寧にご講演いただき、大変勉強になりました。特に、HCVの治療法の進歩の速さに大変衝撃を受けました。今後の肝炎ウイルスの動向について目が離せなくなりそうです。また、臨床医をしながら熱心に研究に取り組む先生の姿勢に感銘を受け、自分も頑張らなければと奮起させられました。

最後に、朝比奈先生はじめご講演いただきました先生方、ならびに企画・運営してくださった西村先生、増田先生をはじめ、多くの関係者の方々に感謝申し上げます。

執筆者

佐藤 光

国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部ウイルスセンター 佐藤 光

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