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「水インフラとノロウイルス進化」を聴講して

東北大学大学院環境科学研究科准教授 佐野 大輔 先生東北大学大学院環境科学研究科准教授 佐野 大輔 先生

概要

胃腸炎ウイルスの感染経路

胃腸炎ウイルスの感染では糞口経路が最も重要であるが、その他の(下水から流れたウイルスが再度人に感染するような経路)の寄与率は実際どうなのか、そうした経路での感染の制御については、どこまでお金をかけてもよいのかを精査する必要性がある。

ノロウイルスの構造

粒子直径36 nmのノンエンベロープウイルスである。(+) single strand RNAをゲノムとして持ち、3つのopen reading frame(ORF)をもつ。ORF2にはカプシドを構成するVP1がコードされており、カプシドの免疫圧力を受ける領域は変異の蓄積がはやい。カプシドの配列相同性からノロウイルスは5つの遺伝子群に分類されており、このうちヒトに感染するのは遺伝子群I、II、IV型である。

ノロウイルスと血液型

ノロウイルスはヒト小腸上皮細胞表面に発現している組織血液型決定抗原(Histo-blood group antigen: HBGA)を認識する。HBGAは、ヒトの血液型(ABO)を決めるオリゴ糖である。ヒトにおいて、HBGAを分泌する酵素(Se)を持つ個体は、Seを持たない個体よりもノロウイルス感受性が高いとの報告がある。また、ノロウイルスのHBGAへの結合様式は遺伝子型により異なることも報告されている。

一方、HBGAとの結合能を持たないノロウイルスの遺伝子型も存在する。このことからHBGAはノロウイルスの感染にとって、あくまで足掛かりとなるようなものである可能性もあり、決定的なレセプターとは言い切れないようである。

胃腸炎ウイルス吸着性腸内細菌

先生は以前、免疫を学ぶ中で、「ある種の腸内細菌は組織血液型決定抗原様物質をその表面上に有している」ということを知り、ノロウイルスはHBGAを表面に持つヒト腸内細菌に吸着するとの仮説を立てた。

抗HBGA抗体がコーティングされたELISA(バイオパンニング法)を用いたスクリーニングにより、ヒトの糞便からHBGA様物質を持つ腸内細菌を回収した。回収した細菌表面に血液型抗原があることを、血液型分類キットを用いA, B, O型抗体に対する凝集活性から確認した。菌株Enterobacter sp. SENG-6は、上記試験により多量のHBGA様物質を保有することが示唆された。この試験から、血液型抗原様物質は細菌の外部成分に存在することが示唆されたため、Enterobacter sp. SENG-6とnorovirus-like particles (NoVLPs)を混合し、NoVLPsのフィルター透過性を評価したところ、細菌無コントロール(陰性対照)と比較してフィルターを透過するNoVLPsは減少した。また、透過型電子顕微鏡により、NoVLPsはEnterobacter sp. SENG-6の細胞外物質(EPS; 多糖類、タンパク質、核酸、脂質、高分子化合物から成る)に存在することが観察された。免疫電顕によりHBGA様物質はEnterobacter sp. SENG-6のEPSに存在することが示唆された。EPSを細菌から抽出し、ELISAプレートに固相化しHBGA抗体やNoVLPsへの結合性をみたところ、両者ともにEPSに結合することがわかった。

社会インフラによる胃腸炎ウイルスの選択

下水処理の工程において、ノロウイルスの集団が、消毒に耐性のあるように選択を受ける可能性がある。

遊離塩素がノロウイルスにどのような影響を与えているのかを調べるために、マウスノロウイルスをモデルとして繰り返し遊離塩素暴露実験を行ったところ、独立2回の試行により、共通して変異が生じた箇所がVP2遺伝子配列上に存在していることが見つかった。

感想

普段ウイルスーヒトの関わりを研究している自分にとって、ノロウイルスが腸内細菌とHBGAを介して結合することを実証した佐野先生の研究の話は、非常に新鮮でした。特に、免疫電顕のデータには圧倒されました。貴重なご講演ありがとうございました。

執筆者

弘前大学大学院農学生命科学研究科 修士2年 石田幸太郎

 

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