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林基哉先生の「集団感染発生空間の空調換気の性状」
清水宣明先生の「学校、保育園、高齢者施設等身近な現場レベルの換気+スモークマシンでの換気可視化実習」を聴講して

北海道大学大学院工学研究院建築都市部門 教授 林 基哉 先生 北海道大学大学院工学研究院建築都市部門 教授 林 基哉 先生

愛知県立大学看護学部 教授 清水 宣明 先生 愛知県立大学看護学部 教授 清水 宣明 先生

1.「集団感染発生空間の空調換気の性状」

エアロゾルとは、空気中に漂う微細な粒子が空気中に浮いている状態のことを指す。
ウイルス排出後に適切な換気が行われなかった場合、エアロゾルは空気と同じ挙動を示し、ウイルスが長時間空気中にとどまる。空気感染症はほとんどの場合、①室内で感染が起こる。建物内での感染を抑制するためには、林先生のご専門である建築の分野はもちろんのこと、それだけではなく様々な分野の協力が必要であるとのことだ。

林先生は、クラスターが発生した場合、建築物内の「換気量の確保の有無(空間に拡散したウイルス濃度)」「気流(風下で感染が起こるため)」の二点に注目して調査を進める。講義中では接待飲食店、最新ビル、アイスアリーナ、病院での感染例を紹介してくださいました。以下、抜粋して記述します。

1.1 最新ビルでの事例

クラスターが起こった最新ビル(コールセンター)では、省エネルギーのために「CO2濃度制御装置」が使われていた。これはCO2濃度に応じて外気を取り入れ、換気量を確保するシステムである。多くのビルで取り入れられているこのシステムは、本事例により、実際のCO2濃度とCO2濃度計の自動補正値にずれがあり、十分な換気量が確保できていなかったことが明らかになった。さらに、クラスターが起きたコールセンターでは、初期感染者が排出したエアロゾルを含む空気を風下側へ流す位置にサーキュレーターが設置されており、その風下側に感染者が集中していることが講義スライドからも見て取れた。(ただし実際には感染者と非感染者との接触感染の可能性も否定できないため、空気感染のみで感染拡大したとは断定できないとの補足があった。)

1.2 アイスアリーナでの事例

アイスアリーナでは冷たい空気が下部にたまりやすい。講義では苫小牧市と釧路市のアイスアリーナで起きた感染拡大例を紹介してくださいました。まず、苫小牧市のアイスアリーナで起きた事例では、合宿等により既に選手間で感染が拡大している状態で試合が行われた。アイスアリーナは下部(アイスリンク周辺部)の換気量が極めて少なく、最下層域では測定上、換気量が0であったいう。氷上スポーツ実施による接触感染の可能性もあることながら、換気量の少なさが感染拡大の主要な原因なのではないかと林先生は考えているとのことだった。さらに、アイスアリーナの構造上の特性として、アイスリンク上の空気が選手ベンチへあふれ出し、そこで溜まってしまうということがわかった。そのため、その後は選手の感染を防ぐために、空気の流れを止めないよう選手ベンチ後方に設置されていたパーティションを排除するという対応策がとられた。

さらに釧路市のアイスアリーナの感染例では、外気とアリーナ内の空気を上部で循環するというシステムで換気を行っていたため、下部では全く換気が行われていなかったことが明らかになった。下部では空調によって生じる微妙な気流に乗ってリンク上の空気が南側観客席に上昇し、観客席での空気感染が生じていた。これに対し、ファンを設置してリンク上の空気が観客席に上昇する前に上部へ排出するという対策を講じたが、実際の効果については調査中であるという。

1.3 病院での事例

病院では給気、または給排気によって病室内の換気量を確保する努力が行われている。だが、クラスターが起こった病院を調査すると、最大排気量でも設計値の約50%で、ほとんど換気ができていない病室もあったという。病室のドアを開け、廊下との相互換気によって病室内に空気がこもらないように配慮していたものの、30分に一回、節電のために給気が停止するというシステムだったために、廊下の空気が病室内に逆流していたことがわかった。

この病院でのクラスター例では、病室内での換気が不十分だったことに加えて換気をやめてしまう時間があったために一気に感染が拡大したのでないかと考察される。

1.4 林先生の講義のまとめ

古い建物では定期点検が重要であり、換気不良がクラスター発生の要因だろうとのことである。講義中に何度も空気の流れと換気の重要性について言及されていたことを踏まえると、飲食店や商業施設に設置されているパーティションの設置方法についても検討、指導が必要なのではないかと考えられる。パーティションを設置することによって空気の流れが悪くなってしまっている施設もあるのではないか。新型コロナウイルス対策としてワクンチンの促進、是非に注目が向かいがちであるが、他の感染症対策と同様にさらに換気に注目して物理的対策を講じるべきではないかと感じた。

2.「学校、保育園、高齢者施設等身近な現場レベルの換気+スモークマシンでの換気可視化実習」

新型コロナウイルスが流行する中、保育園や幼稚園は感染の温床だとみなされている。清水先生は、子供同士の接触を減らすのではなく換気を徹底することで物理的にウイルスを排除する取り組みを行っている。今回の講義では室内でスモークマシンを使用すると火災報知器が反応してしまうという事情もあり、中京テレビで放映された番組を中心に、換気の重要性について講義して下さった。特に、愛知県立芸術大学での対策と保育園での対策について印象に残ったため、ここで記述する。

2.1 愛知県立芸術大学での感染対策

楽器の演奏、声楽の授業ではマスクをつけることができない。飛沫感染や空気感染が心配される中、どのような対策がなされているのか。清水先生は米国CDC(疾病対策センター)の基準に基づいて、5分で部屋の空気を入れ換えれば感染リスクが下げられるとアドバイスされた。これを受けて大学側は、スモークマシンを用いて練習室内の空気循環を可視化する実験を行った。部屋を満たしたスモークは、窓を全開にしても風がなければ10分後も部屋にとどまり続ける。清水先生は、空気を動かすためにサーキュレーターを設置し、1分30秒ほどで部屋からスモークを排気することに成功した。十分な換気量を確保するためには必ずしも窓を全開にする必要はなく、サーキュレーターや扇風機などで空気の通り道を作ることが大切だという。現在、愛知県立芸術大学では800台の扇風機を購入し、廊下や教室に設置している。また、防音のために締め切っていた窓やドアを開放している。教職員は、学生が安心して学べる環境作りのために基準を設け、感染防御をアートとして捉えて対策を行っている。

また、大がかりなスモークマシンの代わりに簡易的に空気の流れを知る方法として、線香の煙の流れ方を見る方法を紹介して下さった。

2.2 保育園での感染対策

愛知県春日井市下津保育園での実験。保育園では普段どのように空気が流れているのか、普段の感染対策が有効だったのかを調査するため、清水先生はスモークマシンを用いて実験を行った。実験を行った教室では、窓を全開にすることで換気量が十分に確保できており、5分ほどで部屋の空気が入れ替わった。さらに、子供が座った状態で吐き出した呼気を排気するためにはサーキュレーターの導入も効果的だとのことである。空気中に浮遊するウイルスを吸い込まなければ感染しないため、ここでもやはり換気の重要性を強調されていた。下津保育園では常に窓を開けて扇風機を稼働させ、昼食時には相応に工夫した置き方でパーティションを設置している。また、園内の各所に短冊を設置して空気の流れを可視化できるようにしている。

2.3 清水先生の講義のまとめ

コロナウイルスは空気感染であるため、溜めないこと、濃くしないこと、拡散させて薄めて部屋から出すことが重要である。まず感染源近くでウイルスが濃く漂い、その後、徐々に部屋中にウイルスが広がっていく。感染源でウイルスを濃く溜めないために、部屋の空気のスジを通すことが必要だとのことである。今後はウイルスを含んだ空気をどのようにして吸い込まないようにするか、換気量をどのように確保するか、に注目が向かうべきであり、何らかの基準、指導が必要であるとおっしゃっていた。清水先生はここで記述した取り組み以外にも、TOHOシネマズの映画館の換気対策、アンパンマンミュージアムの換気指導、愛知県立大学のエアロゾル感染対策の動画制作にも携わっており、現場を大切にする姿勢に感銘を受けた。

3.林先生と清水先生の講義を聴講して(感想)

林先生と清水先生の講義を聴講して換気の重要性に対する認識が変化しました。大人数での食事会や換気の悪い部屋で長時間過ごすことをなるべく避けたいと思います。また、新型コロナウイルスに対して、医学的アプローチだけではなく素人でも簡易的に行えそうな、このようなアプローチ方法もあるのだと新鮮に感じました。講義いただき、ありがとうございました。

東北大学農学部1年 内田実佑東北大学農学部1年 内田実佑

 

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