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「環境ウイルス生態学―自然界の生物に潜むウイルスのはなしー」を聴講して

筑波大学 生命環境系糸状菌相互応答講座助教 浦山 俊一 先生筑波大学 生命環境系糸状菌相互応答講座助教 浦山 俊一 先生

概要

ウイルスといえばインフルエンザウイルスやHIVといった、細胞に感染して増殖し、細胞を壊して新たな細胞に感染する“感染型ウイルス”が真っ先に思い浮かぶ。しかし単にウイルスと言っても、環境中にはバクテリアに感染するが人には病原性を示さないウイルス等も存在し、その数は計り知れない。今回は人体に病気を引き起こすウイルスからは離れて、細胞を破壊せずに持続的に感染するという特徴を持つ“持続型ウイルス”にフォーカスを当て学びを深めた。

持続型ウイルスを見つける

RNAウイルスが複製する過程で見られる2本鎖RNA(以下dsRNAと示す)をマーカーとすると、RNAウイルスの存在を確認できる。この手法により病気等の特徴的な表現型を示さない生物からも容易にRNAウイルスの存在を確認できるようになった。調べてみるとパン酵母や浜辺の生物から持続型RNAウイルスが確認され、環境中に持続型RNAウイルスが多く存在していることが示唆された。

持続型ウイルスの役割を知る

植物への持続型ウイルスの感染はアブラムシの草食を減少させるなど、宿主へポジティブな影響をもたらすウイルスも確認されている。また、ピーマン内在性RNAウイルス由来のdsRNAは人の自然免疫を活性化することが示唆されており、農業への応用の可能性を秘めている。さらに糸状菌において、通常の培養条件では発現しない「休眠遺伝子」が、持続型ウイルスによって活性化することがわかっており、その役割と意義の解明が進んできている。

持続型ウイルスの分布を確かめる

浦山先生らが開発したFLDSという技術は、核酸の断片化を利用してRNAウイルスゲノムを効率よく、かつその全長を読むことを可能にしている。このFLDS解析という手法を用い、海洋内に存在するRNAウイルスの分布を調べたところ、細胞外へ出て拡散する感染型ウイルスよりも細胞内に留まる持続型ウイルスの方がはるかにメジャーである可能性があるという。決して物珍しい稀なウイルスではないようだ。

持続型ウイルスを含む寄生体の生存戦略

持続型RNAウイルスは宿主の環境への適応度を高めるなどの、生物に多様性を生み出す役割を持つことで環境中に存在し続けているかも知れない。自己複製技術を持たない寄生体が生存し続けるためには、宿主に利益をもたらすなどの何らかの戦略があるはずだ。あるいは、そういう宿主に利益をもたらすものが、宿主の存続を介して広まっていったとも考えられる。

感想

まだ聞き慣れていない持続型ウイルスのお話は、ウイルス学の奥深さを感じさせる興味深いものでした。ウイルスというと病原性のある悪者という印象が今回の講義で一変したように思います。「持続型ウイルスに感染したピーマンを食べるとdsRNAによって人の自然免疫が活性化されるかも」などと、持続型ウイルスの秘めた働きが解明されていくと、近い将来には人の免疫力を高める品種の育種等も期待されるのではないでしょうか。農学・海洋生物学・微生物学の3分野に精通した浦山先生だからこそ知っている夢の膨らむ次世代のウイルス学を垣間見た思いです。

貴重なご講演を誠にありがとうございました。

執筆者

東北大学医学部医学科3年 高橋佐喜子東北大学医学部医学科3年 高橋佐喜子

 

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