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「フィールド分子疫学で知るノロウイルス」を聴講して

東北大学大学院医学研究科微生物学分野准教授 斉藤 繭子 先生東北大学大学院医学研究科微生物学分野准教授 斉藤 繭子 先生

概要

ノロウイルスについて行われてきた疫学研究の多くは症例研究であるが、コホート研究をしなければわからないことも多い。フィールドに出てコホート研究を行うことで、1)1歳児では無症候性感染者が10~15%程度見られること 2)ノロウイルスの排出期間は乳幼児では長く30日以上であること(成人では2週間) 3)多様な型のノロウイルスがコミュニティに分布しており、乳幼児から繰り返し検出されること、4)ただし同じ型に感染する例は非常に稀であること、などが明らかになった。

ノロウイルスについて

ノロウイルスは、同じく乳幼児における下痢症の主要な病原体であるロタウイルスに比べて重症例は少ないものの、5歳未満の子供の重症下痢症の約12%を占める。感染経路はヒト-ヒト感染が主であるが、糞口感染、経口感染などもあり、特に下水処理できてない発展途上国ではロタウイルスと並びその対策が重要である。

遺伝子は大きく3つのセグメントに分かれており、ORF2Cの部分(Shell domain)が抗原性に関与していると考えられている。様々な遺伝子型が存在するが、世界的に流行を起こしてきたのはGll.4である。

ロタウイルスは2本鎖RNAウイルスなので変異が起こりにくく型が少ないことからワクチンが比較的作成しやすく、既に100か国以上で導入されている。一方、ノロウイルスは1本鎖RNAウイルスなので進化が速く、表面のエピトープ遺伝子が変異してできた新たなエピトープが抗原性をもつことで新しい亜型が出現しやすいことに加えて、培養細胞でのウイルス分離が困難であることから、ワクチン開発はいまだ手探り状態である。

フィールド研究デザインについて

ノロウイルスについて行われてきた疫学研究の多くは症例研究であるが、健常者でウイルスが陽性だった場合にこのウイルスが本当に下痢症の起因であるかということを知ろうとすると、症例対照研究ではなくコホート研究が必要になる。特に、途上国では無症候性の患者が多いのでコホート研究が有用である。

症例研究では下痢症が生じている人を対象にするのに対し、コホート研究では、あるバッググラウンドをもつ健常者ともたない健常者を対象にする。しかし、健常者に便を提供してもらうことは発症者に提供してもらうことに比べて困難を伴う。また、費用や時間の面でも症例対照研究に比べて負担が大きい。そのうえ、発症者が現れない可能性や脱落者が出る場合もある。

このようなコホート研究を成功させるために、Active surveillanceという方法をとった。この方法では、研究に協力してくれる人を直接訪問し、無症候の便検体のモニタリング・発症時の積極的な下痢症症状のモニタリングに努める。

ノロウイルスに対する免疫

一つのコミュニティには様々な型のノロウイルスが混在していて、繰り返し感染する子どもも多いが、その場合同じ型に複数回感染することは非常に稀である。そのため、ノロウイルスの免疫は遺伝子型特異的であると考えられる。ただし、複数回感染するごとに下痢症状の軽減がみられるため、異なる型に対しても部分的な免疫機構は働いていると思われるが、その交差免疫についての詳細はまだ分かっていない。

感想

初めての参加でかつ聴講録を担当させていただくということもあり少々不安でしたが、先生方が分かりやすく講義してくださり、充実した時間を過ごさせていただきました。

公衆衛生にも興味がある私にとって、フィールド研究の実際についてのお話は大変興味深く、自分も取り組んでみたいという意欲が高まりました。コミュニティにおけるフィールド研究で分かったことから新たに疑問が生まれ、それを解明することによって研究がコミュニティに還元されていくのだろうと思いました。

ご講演くださった先生方、このような素晴らしい機会を用意してくださった西村先生をはじめとするウイルスセンターの皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

執筆者

山形大学医学部3年 佐藤瑠衣山形大学医学部3年 佐藤瑠衣

 

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