
ウイルスセンタートップ >> みちのくウイルス塾 >> 第17回みちのくウイルス塾 >> 聴講録 >> 三浦尚之先生
国立保健医療科学院生活環境研究部水管理研究領域主任研究官 三浦 尚之 先生
感染性胃腸炎の主要な原因とされるノロウイルスによる感染は、我が国において毎年秋から春にかけて顕在化する。このウイルスは感染者の便中に排出されるが、その後は現在の下水処理プロセスでは十分に不活化・除去することが困難なため下水処理放流水に含まれる形で水環境中に排出されてしまっている。
今回は下水や下水処理プロセスにおける挙動について、そして河川や湖沼等の水道水源における存在状況。更にはカキへの蓄積メカニズムの3つの話題についての講義であった。
2013年4月から2016年3月にかけて宮城県内の下水処理場にて試料を採取して解析した。同時に同じ地域の下水処理区域内に位置する外来医院を受診した感染性胃腸炎患者からも患者便を収集して分析を行った。その結果、下水にはノロウイルスGIIが最大105copies/mlもの高い濃度で含まれ、地域の胃腸炎患者報告数に対して遅れることなく変動することが分かった。また、下水からは軽症の或いは無症状の感染者に由来する遺伝子型も含めて多様な遺伝子型が検出され、それらが経時的に変化することも分かった。
得られた下水試料から次世代シーケンサーを用いて網羅的なウイルス遺伝子の検出を行いそれらの型の同定を行ったところ、新たな変異株が、流行を起こす前のシーズンにマイナーな集団としてヒト集団に入っていることが分かった。
膜分離活性汚泥(MBR)法による下水処理プロセスによって胃腸炎ウイルスは効率よく除去される。一方、ロタウイルスは活性汚泥への親和性が低く、ノロウイルスやサポウイルスと比較して除去性が低い傾向が認められた。このような親和性の違いにはウイルス粒子の等電点の違い、及びウイルスカプシドの疎水性の違いが影響していると考えられる。
表流水中の胃腸炎ウイルスは、水中の懸濁物質に吸着して存在しているのかそれともフリーでいるのかに関する知見はあまり得られていない。現在どのようなものに吸着して存在しているのかを、膜を使って分画することで調べている。2018年1月に全国21か所の浄水場で採水された原水を解析したところ、河川や湖沼等の表流水にはノロウイルスGIIが最大105copies/Lの濃度で含まれ懸濁物質にも吸着して存在するが、ロタウイルスは溶存態として存在する割合が多いことが分かった。また、検出されたノロウイルスGII株の多くは、GII.4 Sydney2012に近縁な株だった。
カキ中のノロウイルスについてモニタリングした結果、下水中のノロウイルスGII濃度に呼応するかのように連動しているというデータが得られた。相互相関解析を行うと、患者報告数に対しての下水中濃度はやはり、ラグ0の部分が最も相関係数が高くなった。遅れがある部分でも有意に相関したのは、患者から一定期間ノロウイルスが排出され続けることが影響していると考えられた。
下水に対するカキのノロウイルスGIIの濃度を調べたところ、ラグ0において相関係数が最大となったのは同じだが、有意な相関係数が観測された週が0〜+2週後ろにずれる傾向になった。
患者報告数とカキ中ノロウイルスGII濃度について相関を分析してみると-1〜+2週の遅れにおいて有意に相関するが、特に+1週において相関係数が最大となることがわかった。
現在は、カキのノロウイルスの蓄積濃度における個体差についての研究も行っている。河口付近に設置したカキ棚から1週間に7個体ずつカキを採取して調べた結果、カキ個体によってノロウイルスGII濃度は大きく異なっており(不検出〜3,000copies/g)、カキ消化組織中のある糖鎖の発現量の違いが影響している可能性が示唆された。今後このような糖鎖を合成するなどして、ノロウイルスの吸着を評価してメカニズムの解明につなげていきたいと考えている。
2018年の2月にプランクトンの調査を行ったところ、植物・動物プランクトン画分からノロウイルスGIIが最大104copies/Lの濃度で検出された。このように水中に漂っているものにウイルスは吸着して自然界からの不活化要因から自身を守って、そしてカキに蓄積されている可能性があり、それをまたヒトが食べることで新たな感染のリスクとなるという考え方をサポートするような結果が得られた。ノロウイルスが吸着している細菌を含めた植物プランクトンを動物プランクトンが捕食して、さらにカキの中腸腺に蓄積されていくというようなウイルスについての生物濃縮が起きているのではないかと考えられる。
今回三浦先生の講義を担当させていただきありがとうございます。自らの手で文字に起こすことで、より深く講義内容を勉強することが出来たように思います。
初めての「みちのくウイルス塾」参加でとてもわくわくしていた反面、緊張していました。というのも、現在、本郷教授のもと感染症について勉強させて頂いており、非常にウイルス感染症に興味があったのですが、未熟な私では話についていけないのではと不安も感じていたのです。当日は西村先生の挨拶から早速講義が始まりました。やはり勉強不足な私では難しい内容もありましたが、担当してくださった先生方皆さんが学生でも親しみやすいよう配慮したユーモア溢れる講義をしてくださいました。そのため、はじめは緊張していた私も興味深く勉強させていただきました。全体的に印象深いのは講義ごとの質疑応答です。感染症やウイルス研究などに深く携わっている人、ウイルスに興味を持つ意欲ある人が多く参加するだけあり、様々な視点からの深い質問と回答で白熱していました。白熱のあまり予定よりも延びてしまう場面もありましたが、これほどあつく議論が交わされる本セミナーに参加できたことは医学生としてとても良い経験となったと感じております。今後さらに勉強して再び「みちのくウイルス塾」に参加できるよう頑張ります。ありがとうございました。
山形大学医学部3年 森ともみ
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