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「生体防御の必殺技…抗菌ペプチド」を聴講して

前東北大学大学院動物微生物学教授 磯貝 恵美子 先生前東北大学大学院動物微生物学教授 磯貝 恵美子 先生

概要

新興感染症

1世紀は、感染症の時代である。2004年9月に野生動物保護協会が呼び掛けて、ヒト・家畜・野生動物集団における病気の伝播の現状に関するシンポジウムが開催された。このときエボラ出血熱などに対する地球上の生命体への脅威と戦うための国際的、学際的な優先順位やコントロールの方法について発表され、one world one healthという言葉とともにマンハッタン原則が採択された。この背景として、今でも問題となっている新興感染症がある。最近の事例ではアフリカでのエボラ出血熱の流行があげられる。2014年に地方病であったエボラ出血熱は中央アフリカから西アフリカまで拡大した。感染症の拡大の原因には生活が便利になり交通や流通が発達したことが大きく関係している。2014年という年では日本ではデング熱の国内流行が起こったことも記憶に新しい。

ナショジオグラフィティーニュースによると、地球温暖化の最も大きな影響は野生動物や人間の間で致死的な感染症が広まることであり、野生生物保護協会は温暖化の影響を考慮すると死に至る12の病が挙げられるとして注意を呼び掛けた。この12の病の一つがライム病である。

ライム病

ライム病は新興感染症であり、病原体はマダニにより媒介されるボレリア(スピロヘータ)である。この感染症が国内で発生したとき、スピロヘータの培養が困難であることから、スピロヘータの研究をもともと行っていた研究者たちがライム病の疫学調査等の研究を行った。ライム病は皮膚病変の遊走性紅斑が特徴病変であり、他にも感染初期には頭痛倦怠感、中枢神経系の症状や眼ライム病、あるいは関節病変として関節痛など多彩な症状を引き起こすが、不明な部分もある。研究を行う際、日本のライム病の株は海外のものと病原体が抗原やゲノムが異なるため、感染モデルをつくることや新しいシステムを組む必要があった。神経ライム病の犬が治療されたケースもあり、ライム病は診断がつけば治る疾患である。磯貝先生は研究のために北海道の動物の死体の収集をなさっていた。先生が回収した検体のひとつである野生動物のキツネの交通事故の死体の写真には、ダニの刺傷がみられた。この検体はダニの刺傷跡には皮下出血がある他、違う部位にも出血がみられたことから、血管を介して病原体であるボレリアが移行したといえる。

ライム病を媒介する生物はマダニである。磯貝先生はライム病の研究を行う中でダニに二回刺され、実際感染したことがあるそうだ。ヤマトダニは刺傷後しばらくしてから、吸血し、自然脱落まで94時間から100時間かかる。シュルツ江マダニはこれよりも吸着している期間が長い。

ライム病では、特定のマダニが特定のボレリアを有しているという仮説がたてられており、マダニとボレリアは共進化を遂げているとされている。同様にシロアリにはキチン分解能を持つスピロヘータを腸管内に持ち、共生関係を示す。マダニやシロアリには細菌のふるい分け機能があり、それを担うものが抗菌ペプチドであると考えられる。ライム病は皮下出血をするが、その皮膚病変の周囲には皮膚に常在するはずのブドウ球菌がいない。マダニはライム病の病原体となる細菌を媒介することから、マダニの抗菌ペプチドはブドウ球菌を選択的に殺すのではないかと仮説をたて実験をした。

薬剤耐性菌

なぜ、抗菌ペプチドにおいてブドウ球菌の殺菌作用に着目したかというと、薬剤耐性菌の問題のためである。薬剤耐性菌は重大な問題であり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の感染はヨーロッパでも広がりを見せている。CDCによれば薬剤耐性菌による感染が年間200万人に起こっており、日本では厚生労働省の発表によると年間25万人が薬剤耐性菌に感染している。Jim O‘Neillによると薬剤耐性菌問題を放置していた場合、2050年には推定1000万人の死亡が推定されている。国内でも薬剤耐性菌への対策として薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが2016年から2020年の期間で出されている。AMRアクションプランには6項目あり、中でも普及啓発、畜産における問題、創薬と診断を重点化したいと先生は考えている。啓蒙活動や行動療法によって、ウイルス感染での抗菌薬投与といった不適切な抗菌薬処方を減らすことが出来る。また、耐性菌の感染症のうち、食品・家畜関連が原因とされるものは20%に及ぶ。2016年の論文で、家畜(豚)からコリスチン耐性遺伝子mcr-1をもつ大腸菌が中国で発見され、ベルギーではこの大腸菌のヒトへの感染が報告されている。mcr-1が発現した腸内細菌は家畜などの食物や環境から広く検出されている。

抗菌ペプチド

抗菌ペプチドは無脊椎動物や脊椎動物が有している自然免疫の分子である。獲得免疫は脊椎動物のみ行っているが、自然免疫は脊椎動物も無脊椎動物も行っている。自然免疫の例としてTLR(Toll Like Receptor)や抗菌ペプチドがある。

ヒトの抗菌ペプチドは大きくデフェンシンファミリ−とカテリシジンファミリ−がある。デフェンシンファミリーはβシート、カテリジンファミリーはαヘリックスの構造をしている。節足動物のデフェンシンファミリーにはβシートとαヘリックスの両方を持っているものがある。

Cationic antimicrobial protein 18 (CAP18)/LL-37はカテリジンファミリーに属する人由来抗菌ペプチドである。αヘリックスがぐるぐると巻いた構造をしている。カチオン性アミノ酸を有することが特徴であり、構造がカチオン側と疎水性アミノ酸側にわかれている。CAP18は好中球由来の塩基性抗菌タンパク(CAP18)として同定された。活性ドメインは37残基あり、この37残基は粘膜上皮から分泌されるLL-37と同じである。この抗菌ペプチドは活性が弱い。両端5残基を外して27残基とする実験をしたが活性の低下が少なかったため、両端5残基を除去した上でグルタミン酸およびリシンをフェニルアラニンにする置換を行ったところ顕著な活性増強が起こった。CAP18がLPS 結合蛋白として知られているため、CAP18/LL-37はLPSの中和を行っていると考えられた。グラム陽性菌、グラム陰性菌で実験したところ、グラム陽性菌ではLTA(リポタイコ酸)、 グラム陰性菌ではLPS(リポ多糖)などがターゲット分子であるとわかった。これらへの細菌活性を調べると、多くの細菌に対して濃度依存性の抗菌活性を示した。

自然免疫のTLRは無脊椎動物、脊椎動物ともに多様の種類がある。病原体の分子パターンをTLRはいち早く認識して、自然免疫が働く。対して抗菌ペプチドは内毒素に結合し中和する。抗菌ペプチドは、内毒素の刺激により免疫が活性化したことで過剰に産生されたサイトカインによる炎症惹起を抑える効果がある。実験を行ったところ、抗菌ペプチドがエンドトキシンショックの中和を行うことや内毒素誘発性の実験的ブドウ膜炎(EIU)を抑制すること、さらにTNFαなどの代表的炎症サイトカイン産生を抑えるという結果を得た。

抗菌ペプチドは、多くが共通して陽性電荷を保持し,50%以上の疎水領域を持つ多機能性物質である。抗菌ペプチドは抗生物質のような耐性菌を生み出しにくい性質があり、有用性があると注目されている。

ダニや昆虫といった節足動物は4億年前のデボン紀に生まれた。ヒトの祖先である原始食虫目の出現は1億4千年前である。病原体がいつどころから来たのかと考えると、節足動物の時代の頃からやり取りしていたのではないかと考えられる。

マダニの抗菌ペプチド

マダニの抗菌ペプチドの構造は、リシンとアルギニンが陽性荷電を持ち、親水性の陰性荷電部位が細菌の表面にある。またフェニルアラニンとロイシンという疎水性の部位が細菌の膜脂質と相互作用をしている。節足動物の抗菌ペプチドの多くは構造上、αヘリックスとβシートを両方持っており、この構造を支えているのがS-S結合である。S-S結合がなくなると、分子の特性が消失し、活性もほとんどなくなる。

ダニ由来の抗菌ペプチドであるデフェンシン(Persulcatusin:IP)の薬剤耐性ブドウ球菌の増殖抑制効果を調べたところ、非常に強い効果を示した。IPは他のダニ由来のデフェンシンや、哺乳類由来の抗菌ペプチドの中で一番強い抗菌ペプチドBMAP28よりも、強い増殖抑制効果があった。IPはMRSAだけでなく、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)にも抑制効果を証明した。MRSA、VRSAともに電子顕微鏡の画像では、細菌が梅干し状に潰れた様子がわかる。対して、薬剤耐性腸球菌(バンコマイシン耐性腸球菌)へのIPの作用を調べたところ膜破壊作用はなく、増殖抑制効果のみがみられた。この理由として、DNA結合活性が増殖抑制に関与がある。

哺乳類由来の抗菌ペプチド

磯貝先生はMRSAに対する抗菌ペプチドの候補として、牛由来の抗菌ペプチドBMAP28を使うことを考えた。BMAP28はヒト由来のLL-37に似た構造を持つ。BMAP28によりMRSAとメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)はともに菌体の破壊がみられ、殺菌活性がみられた。そしてMRSAとMSSAに対する菌体の破壊の仕方が異なることがわかった。MSSAは細胞膜が破壊されているのに比べて、MRSAは細胞のサイズが小さくなり、細胞の中身が出ているが形は保たれている。これは菌体の細胞膜の脂質の組成を比べると質的には変わらないが、量比が異なることがわかったため、この脂肪酸組成の違いが感受性に関与していると考えられた。

腸球菌の殺菌作用についてE. faecalis とE. faeciumを用いて調べたところ、E. faeciumは感受性があり殺菌されるが、E. faecalisは抵抗性があり殺菌されなかった。菌種によって感受性と抵抗性という異なる結果が出た。感受性種は細胞膜表面がざらざらになっており、損傷が確認された。

抗菌ペプチド耐性が起こる要因のひとつは、細胞膜リン脂質クラスの変更により、静電気的にペプチド接近を阻害するためである。通常マイナスにチャージしている細胞膜表面がプラスにチャージすると抗菌ペプチドの感受性が落ちるのである。もう一つの要因は、リン脂質の脂肪酸構成を変化させ膜が硬くなり、抗菌ペプチドの挿入を阻害するためである。細菌種間で細胞膜リン脂質クラスには大きな違いはなかったが、脂肪酸組成は抵抗性と感受性で異なることがわかった。よって、膜脂質の構成比が耐性化に大きく関わっている。

抗菌ペプチドのウイルス感染制御について

磯貝先生はウィルス感染に抗菌ペプチドは効果を示すのかについて調べた。抗菌ペプチドはHIVやインフルエンザウイルスといったエンベロープをもったウイルスに有効だ。抗菌ペプチドはインフルエンザウイルスのマウスモデルの感染防御モデルで抑制を示した。ヒト由来抗菌ペプチド(LL-37)と牛由来抗菌ペプチド(BMAP-28)との類似性を持つショートペプチドでも、抗ウイルス効果があった。

抗菌ペプチドの癌抑制作用について

哺乳類由来カセリシジンファミリーの抗微生物活性は細菌、ウイルス、原虫に効果を示すほか、抗菌活性は癌抑制作用にも関係している。ヒト由来抗菌ペプチドCAP18/LL-37は口腔扁平上皮癌に対して初期アポトーシスマーカーであるミトコンドリアの脱分極を誘導する。時間経過に伴い、細胞はアポトーシスを起こしていく。しかし、同じ濃度でこの作用は大腸癌ではおこらない。癌の種類で細胞死に差があるのである。

抗菌ペプチドLL-37のアミノ酸置換した分子は大腸癌の増殖抑制効果とアポトーシスの誘導を示した。ミトコンドリアの脱分極を、蛍光プローブMitoCaptureを用いて,ミトコンドリア膜電位の変化とアポトーシスを調べたところ、正常細胞においてMitoCaptureはミトコンドリアにとりこまれ赤色蛍光を示すが、抗菌ペプチドではミトコンドリアに取り込まれずに細胞質で緑色蛍光を発し、抗菌ペプチドによって初期アポトーシスが誘導された。この結果はp53ミュータント細胞でも同じであることから、抗菌ペプチドはp53に関与していない。

また、FAM標識によるペプチドの局在観察を行った。FAMを蛍光標識したFF/CAP18を大腸癌細胞HCT116へ投与し、時間を追って蛍光顕微鏡にて観察したところ、最初は細胞膜で蛍光がみられたが、その6時間後には細胞質内へ蛍光標識が入り、細胞膜からは消えた。アポトーシスは72時間後にみられた。抗菌作用と異なり、抗癌作用では膜の破壊がみられなかった。

これらの結果より抗癌作用にはmi RNAが関与していると考えた。mi RNAは遺伝子発現を抑制する効果を持つ21〜25塩基程度の一本鎖の微小RNAであり、ゲノム上にコードされているが蛋白質へは翻訳されないnoncording RNAである。標的miRNAを不安定化するとともに翻訳抑制を行うことでタンパク質産生を抑制することから多くの生命現象に深く関わっていると考えられている。特に癌においてはアポトーシス、細胞増殖、代謝に関与している。磯貝先生はmiRNAをうまく誘導すれば、がんの制御にもつながるのではないかと考え、検証した。

抗菌ペプチド処理による大腸癌細胞のアレイ解析を行った。ヒト由来の抗菌ペプチドでありLL-37の40μg/mlと80μg/ml、FF/CAP18においてmiRNA発現量を比較したところ、LL-37 の増加とともにmiRNAが活性化したことがわかった。なかでも増加が顕著であったmiR-663aについて調べた。大腸癌細胞のHCT116 細胞にレンチウイルスの形質導入によって miR-663a の過剰発現株を作成したところ、細胞の膨化が起こり、癌の増殖が抑制された。マウスを用いたin vivoでも、癌の増殖が抑制された。抗菌ペプチドFF/CAP18処理でも同様に大腸癌の増殖は抑制された。以上より、抗菌ペプチドはmiR-663aを誘導し、誘導されたmiR-663aは最終的に細胞増殖に関わるサイクルも変えることから、CXCR4-Akt pathwayの制御系に関わっている。

抗菌ペプチドのエクソソームによる抗癌作用

抗菌ペプチドはがん細胞そのものだけではなく、エクソソームを介した制御も行う。エクソソームは細胞間コミュニケーションツールとして使われている。エクソソームはすべての細胞から分泌され体液によって輸送される細胞外膜小胞である。細胞にストレスが加わると、エクソソームの量や中身が変化する。このエクソソームの中にはmiRNAが入っており、miRNAや核酸、タンパク質を細胞へ届け、遺伝子発現を調節する。エクソソームを集め、癌細胞に振りかけると、癌細胞の抑制が起こる。つまりエクソソームを介して、癌細胞が増殖を抑制するような細胞間コミュニケーションを行っている。実際にmiRNAの発現をみると、細胞と共通のmiRNAが上昇することがわかる

抗菌ペプチドの合成

ペプチド合成は高価であるため、経済的問題を克服しようと抗菌ペプチドの特徴を持った小分子合成を行った。

抗菌ペプチドはカチオンと疎水性が大きな特徴であるため、ステロイド骨格にカチオンを作り、CarageninCSA-13を合成した。CSA-13によって細胞増殖の抑制をかけることが出来た。しかし、抗菌ペプチドによって生じたミトコンドリアの脱分極は、CSA-13では起きなかった。抗菌ペプチドは細胞の中に入り、いろいろな制御系を動かし、癌細胞を制御するが、その一方でCSA-13は細胞膜そのものを攻撃するため、細胞内の制御系は動かないのである。

質疑応答

Q1

抗菌ペプチドが内蔵されているエクソソームの放出量は細胞によって異なるのか。

A

エクソソームは抗菌ペプチドそのものをそれほど内蔵していないと思われる。あくまでもエクソソームの刺激により、細胞の中で色々なmiRNAが発現する。エクソソームはストレス応答であり、多様なエクソソームが出てくるため、おかれている環境下や細胞の種類によってエクソソームの種類が異なる。肺癌と大腸癌の場合では、制御や関連しているmiRNAが全く異なる。どのmiRNAを使えばいいのか、どの検体を使えばいいのか、癌の領域でホットな研究となっている。

Q2

抗菌ペプチドが細菌だけでなくウイルスにも効果があるとのお話だったがどのような機序で抗ウイルス作用が起こっているのか。

A

ウイルス感染の場合、ウイルスが外にいてエンベロープを攻撃する場合がひとつである。ウイルスが感染して細胞内に入り、感染細胞となったときは、どこかのステージで細胞膜が変化したときに抗菌ペプチドが攻撃できる。よって何らかの形で膜構造が変化したとき抗菌ペプチドが動き、細胞内でのウイルス増殖が出来なくなる。あるいは、中途半端な状態でウイルスの組み立てが出来なくなる。色々な状態のステージによって様々な効果がある。ウイルス感染だけでなく、原虫感染でもステージで効果が異なる。ウイルス感染のステージで感染細胞の細胞膜がどのような状態になっているか、今後研究が必要となってくる。

Q3

抗菌ペプチドの作用において、癌細胞と正常細胞の違いを見つける必要があるのではないだろうか。

A

癌細胞ではネガティブチャージが上昇する。抗菌ペプチドはカチオンを持っているため、細胞のわずかなネガティブチャージの上昇により細胞側の違いを見極めている。また、抗菌ペプチドのレギュレーション蛋白、レギュレーションペプチドには受容体があるのではないかという仮説がある。この仮説に対して実際にいくつかの受容体が提示されているがそれらはひとつの特異的なカギと鍵穴的な受容体ではなく、そのような側面を持っている受容体という風に考えた方がよいだろう。

Q4

抗菌ペプチドは細胞膜を壊すとあるが、細胞毒性がないのか。

A

抗菌ペプチドで正常細胞に毒性を示さなかったのはマダニの抗菌ペプチドIPである。意外に哺乳類由来の抗菌ペプチドは、BMAP28にしてもLL-37にしても濃度が上昇すると溶血反応を示すことがある。癌細胞に効く濃度と正常細胞に効く濃度に差があるためこの濃度の間で使用をする。身体が火事場になったとき抗菌ペプチドは産生されるが、このときの抗菌ペプチドの濃度での範囲内の使用ならば問題ない。

Q5

抗菌ペプチドが商品化されたとき、今の抗菌薬にコストの面からも取って代わることがありえるのだろうか。

A

コスト的にはペプチドの合成は高い。CSA-13といったステロイド骨格とカチオンの構造を考えることが出来たが、レギュレーションをもつオリジナルの抗菌ペプチドとは異なるものである。コストの面を考えると、誘導をかけて抗菌ペプチドを得る方法が良い。LL-37の最も強い誘導剤は、コストが安い活性型ビタミンDである。その他にも様々な誘導剤によって抗菌ペプチドは誘導することが出来る。

Q6

CSA-13以外に抗菌ペプチドの小分子ミミックの人工小分子はないのか。

A

癌抑制やウイルス感染制御において小さくすれば安くできるのではないかと低分子を作ったが、ダニ由来の抗菌ペプチドは低分子になると活性がなくなった。そのためダニ由来は立体構造がポイントだと考えられる。哺乳類由来の抗菌ペプチドのカテリジンファミリーではLL-37やBMAP28をベースにした小分子ペプチドの研究が流行っており、結果はケースバイケースである。効果は多様で、例として細菌に効かなくてもウイルスに効くといった効果が報告されている。

Q7

疎水性をあげてカチオン性をあげるということは相反することではないだろうか。CSA-13のOで結合している部分をSに変えれば疎水性があがるのではないか。

A

理論上うまくいくはずだと実験を重ねており、上記のような実験も行っている。気を付けないと細胞毒性が強く出る可能性があるため、細胞毒性をあげずに抗菌活性を強くする工夫が求められる。CSA-13はMRSAに効果があるがカビには効かないが、カビに効く別な抗菌ペプチドは別に存在する。その効果の違いは生物の生き様に関連しているらしく、植物由来の抗菌ペプチドと哺乳類由来の抗菌ペプチド、節足動物由来の抗菌ペプチドを比較すると生き様の違いが見えたように感じることがある。

感想

みちのくウイルス塾に参加したのは今回が始めてでしたが、非常に面白く勉強になりました。磯貝先生の抗菌ペプチドの研究はこれからの新薬開発の光といえる研究だと強く感じました。抗菌ペプチドは細菌、ウイルス感染、真菌、原虫、癌と多様な疾患に効果があり、耐性を作らないといった特徴があることを学びました。抗菌ペプチドの種類は多様であり、効果や耐性には差があります。また、未知な部分もあり、製造についても研究されており、将来さらなる発展を遂げていくと感じました。抗菌ペプチドの研究では効果の違いには生物の進化や生き様を垣間見ることが出来るというお話も興味深かったです。野生の動物の死体収集といったアクティブな手法もとられており、研究への熱心な姿勢や考え方を学ぶことが出来ました。素晴らしいご講演誠にありがとうございました。

執筆者

獨協医科大学 4年 松村薫

 

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