ウイルスセンタートップ >> みちのくウイルス塾 >> 第15回みちのくウイルス塾 >> 聴講録 >> 本田先生
岡山大学資源植物科学研究所 教授 鈴木 信弘 先生
岡山大学資源植物科学研究所の鈴木信弘先生は今回、ご自分のマイコウイルスの研究の中で発見したこれまでのウイルス学の常識を覆すような驚くべきウイルスについてお話してくださいました。
マイコウイルスとは、菌類(カビ)に感染する、主に二本鎖RNAをゲノムとして持つウイルスである。細胞外からの伝搬・侵入に何がかかわっているのか、媒介者や経路は知られておらず、細胞間の移行を通じて、すなわち宿主菌の細胞分裂,細胞融合の際に水平・垂直伝搬しているウイルスである。マイコウイルスの多くは病気を示さない潜伏感染状態である「無病徴感染」であるという。
先生がマイコウイルスについて研究する目的は、3つあるという。ひとつめは、これが「病原糸状菌を宿主とするウイルスは生物の防除因子となる可能性を秘めている」こと、ふたつ目は「ウイルスの複製/病徴/防御メカズムを解明したいこと」最後に、「ウイルスの多様性を解明したいこと」だという。
マイコウイルスの研究を進めていく中で、ウイルスの定義に当てはまらないウイルスを見出すことができた。それがキャプシドレスウイルスのヤドカリウイルスである。
このウイルスは、マイコウイルスにしては珍しく、1本鎖のRNAをゲノムとして持ち、それがコードしているのは複製酵素のみという非常に変わったウイルスである。このウイルスの名前がヤドカリである由来は、共感染しているヤドヌシウイルスの殻(キャプシド)を借りてあたかも二本鎖RNAウイルスのように振る舞うことからきている。
その宿主は、主に果樹などに深刻な影響を及ぼす白紋羽病菌(土壌生息性の糸状菌)である。この菌をスクリーニングしたところ、W1032株において、病原力の衰退が見られた。この菌株からウイルスのゲノムRNAを抽出したところ、2種類のRNA分子が検出された。だが、不思議なことに検出されたウイルスのキャプシドタンパク質は、1種類のみであった。そこで見つかったのが、キャプシドを持たないウイルス、ヤドカリウイルスである。
まずウイルスのゲノム塩基配列を人工的に合成し、増殖や感染の有無を調べた。その結果、ヤドカリウイルスは、単独では感染性を持たない一方で、ヤドヌシウイルスは単独で増殖や感染する能力を持つことがわかった。
さらにふたつのウイルスを共感染させる実験をおこなったところ、双方で増殖、感染が見られた。これらの結果から、ヤドカリウイルスはヤドヌシウイルスとの共感染時のみ、感染性を有することがわかった。
これまでの実験から、ヤドカリウイルスはヤドヌシウイルスのキャプシドタンパク質を乗っ取り、感染の過程をヤドヌシウイルスに依存していることが明らかになった。一方で、ヤドカリウイルスと共感染した場合のヤドヌシウイルスの複製量もまた増加していたことから、ふたつのウイルスは互いに相利共生していることが明らかになった。ネオウイルスライフスタイルである。
カプシドを持っていたウイルスがなぜカプシドをなくしたのですか?(東北大学大学院農学研究科 両角一輝さん)
動物に感染するウイルスは放出などの過程でカプシドを必要とするが、カビなどに感染するウイルスでは必要としないから
ヤドカリウイルスは、将来的にはヤドヌシウイルスの遺伝子の一部を得て、完全なウイルスへと進化する(ネオな進化)と先生は予測されていらっしゃいます。これは本当に今までなかったこと、ネオなのでしょうか?(福島県衛生研究所 柏木佳子さん)
ヤドカリウイルスの振る舞いは初めて観測されたことなので、過去にあったことかはわからないです。私はヤドカリウイルスがネオな進化を辿っていると考えています。
進化するならばどれぐらいの期間でするのでしょうか?
現在、研究室で実験を行っていますので、もう少しでわかるかと思います。
私たちはキャプシドを有するウイルスを研究材料に用いており、今までキャプシドレスウイルスについて思いをめぐらしたことはありませんでした。今回、鈴木先生の発見されたヤドカリウイルスのお話を聞くことが出来、これまで学んできたウイルスというものの常識が大きく覆されました。また、ウイルスの持つ無限の可能性を垣間見た気がしました。
今回みちのくウイルス塾に初めて参加させていただきましたが、ウイルスについての新たな知識を得られた非常に貴重な二日間でした。ご講演していただいた先生方、増田先生、西村先生、仙台医療センターの皆様に深謝いたします。
弘前大学農学生命科学部分子生命科学科細胞分子生物学分野4年 天沼美里、荒川将志、石村麻里奈、桂巻杏莉
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