ウイルスセンタートップ >> みちのくウイルス塾トップ >> 第12回みちのくウイルス塾 >> 第12回みちのくウイルス塾の様子
2013年7月13、14日の2日間にわたって行なわれました今年の夏の学校『みちのくウイルス塾』も、おかげさまで盛況のうちに終了いたしました。
今回もこれまで同様、講師の先生方による非常に勉強になる講義があり、そのあとそれらに対して会場から活発に質問が寄せられ講師の先生方がそれらにひとつひとつ丁寧に答えるといった、熱気に満ちた非常に有意義な会となりました。これもひとえにみなさま方の暖かいご支援の賜物と存じます。ご協力いただいた方々に、この場を借りて感謝申し上げます。皆様、来年もふるってご参加ください。
なお、会のようすや講義内容を聴講者がわかりやすく解説した聴講録、講義に使用したスライド等も掲載しておりますので、こちらの方もよろしくお願いいたします。
仙台医療センター 西村秀一
※2位の山形大学本郷教授受賞辞退のため、2位以下は繰り上げ順位を表示
本年度から、受講者のさらに活発な質問を促すために、それぞれの日の講義の中で良い質問をしてくださった受講生を表彰するこころみを始めました。
その栄えある第1回目の受賞者には以下の方々が選ばれました。
「ビデオで拝見したエボラウイルスを扱うBSL4でのウイルスの扱いは、宇宙服のようなものを着てとても慎重であるのに、同じ宿主の可能性のあるコウモリの捕獲のときの様子をみると、普通の格好をしていたが、同じような防御の態勢をとる必要はないのか?」
「・・・・・・(困っている様子)」
「本当は同じようにやることが一貫していることになるが、一緒に働いている、あるいは周囲の現地の人たちの中で、自分たちだけ特別な格好は、現実的にはできないということもあるし」「PCRをやってもウイルスが検出されないので、最近は油断しているということもある」ただ、「解剖する時には、防護衣を着てます」とのことでした。
「教科書ではウイルス粒子は光学顕微鏡では観察できないので、電子顕微鏡を使って観察すると書いてありますが、先生の今日の講義では、光学顕微鏡の一種である表面反射干渉顕微鏡では、ウイルス粒子の動きを観察なさっていましたが、光学顕微鏡なのになぜそのようなことができるのですか?」 (あとで聞くと、田村さん自身は、ウイルス粒子に反射した光を見ているため、ウイルスの動きを観察できると理解していたそうです。)
理論的には、光学顕微鏡でも比較的大き目のウイルスであれば粒子として観ることは可能です。問題は「解像度」です。解像度とは2つの点を2つの点として識別できる最小距離のことですが、電子顕微鏡はそれが極めて小さいためにウイルスの構造までも観たりできますが、光学顕微鏡の識別可能な距離はそれに比べてずっと大きく、ウイルス粒子を点として見ることまでは可能でも、実はそれが1個なのか2個以上の塊かは、わからないし、当然粒子の構造なども見えないのです。
私の御覧に入れたウイルスの動きの映像も、そういった限界のもとでのものです。
「その解像度の違いのもとになっているのが、電子顕微鏡で物を見るときに使われる電子線の波長と光学顕微鏡で物を見るときの可視光線の波長の違いです。」
その後、堺先生から、当ウェブサイトに対してつぎのような、丁寧な解説をいただいております。ぜひ、ご覧ください。
西村先生
「検出力」についての補足説明を送ります。
質問してくれた田村さんも(当日は釈然としないような顔をしていましたが)この説明で納得してくれればいいなと思います。
堺@川崎医大
---
光学顕微鏡を使って分解能(解像度)以下の物を検出するという話の補足です。
光学顕微鏡を使ってどれくらい小さいものがみえるかと言うと、高性能の蛍光顕微鏡(光学顕微鏡の一種)を使えば蛍光分子1分子をみる(検出する)ことが出来ます。つまりオングストロームサイズの分子1個がみえるわけです。ところで不思議なことに、蛍光顕微鏡で分解能以下の小さなものが観察可能だと言っても「なぜ分解能以下のものがみえるの?」と疑問をもつ人はあまりいません。おそらくその理由は、「光っているのだからからみえて当然」と考えて納得しているのだと思います。光っているからみえるというのは正しいのは正しいのですが、半分しか正解ではありません。もう半分は「背景が真っ暗だから見える」というものです。空の星はいつも光っているのに(昼はみえず)夜しかみえないのと同じことですね。つまりものがみえる(検出できる)かどうかは、対象物と周囲(背景)のコントラストが重要なわけです。しかし残念なことに生物系の試料において、観察したい対象物(ウイルスや細菌あるいは細胞内小器官など)はその周辺の構造物と似たような生体物質(蛋白質、脂質、核酸など)から出来ており、そのため普通の光学顕微鏡で観察してもたいしてコントラストがつきません(つまりみえません)。そこで小さいものをみる(検出・画像化する)ためには、みたいものとその周囲の光学特性(屈折率や散乱強度など)の微妙な差を人為的に強調してコントラストをつける事ができるかどうかが重要になります。
コントラストをつける方法はいろいろあり、対象物の光学特性によって各種の顕微鏡法を使い分けます。例えば、位相差顕微鏡では対象物と周辺の屈折率の差を強調しコントラストをえていますし、暗視野顕微鏡は散乱強度の差を強調します。また上述した蛍光顕微鏡では対象物を蛍光物質で標識することで周辺との明るさの差を人為的に作ってるわけです。ではウイルスの行動解析で紹介した表面反射干渉顕微鏡はどのようにしてコントラストをつけているのでしょうか。
表面反射干渉顕微鏡によるウイルス粒子の観察法でユニークなのは、上述した顕微鏡法のように対象物そのものの光学特性を利用しているのではなくウイルスが表面とくっついているという状態を利用してコントラストをえている点です。ウイルス行動解析では、ガラス表面(細胞表面に似せるためシアロ糖鎖で修飾したもの)でのウイルスの行動を表面反射干渉顕微鏡で観察します。ウイルスがガラスにくっついている領域では、ガラス、水の層(ごく薄い)、ウイルスの3種類が存在します。照射光は対物レンズを通ってきますが、その大半はガラスやウイルスを透過してしまいます。しかし、照射光のごく一部はガラス-水の境界面で反射します。さらに、ガラス-水の境界面を透過した光の一部が水-ウイルスの境界面で反射します。この二つの反射光が干渉して弱め合います(添付の図を参照)。一方ウイルスのいない場所ではガラス−水の境界面の反射光だけなので干渉はおきません。このようにしてウイルスがくっついているところだけ反射光の干渉が起きることを利用することで、明るい周囲の中での黒い点としてウイルスを検出することができるわけです。
以下のサムネイル(小さな写真)をクリックすると、大きな画像をご覧いただけます。
Copyright © 2005 Virus Research Center All Rights Reserved.